【自分たちはエスプレッソ豆だ】クラウス・ブッセ イタリア車デザイナーの仕事 AUTOCARアワード2021
公開 : 2021.06.16 18:05
環境に価値を与えるデザイン
微妙な変化ではあるが、ブッセが言うように、「社会の成熟とともにクルマも成熟してきた」のである。
「MC20はスーパーカーですから、社会的な部分が非常に重要です。今日、スーパーカーを適切なものにするのははるかに困難です。このクルマを見た人は、経済的に恵まれた人が買ったものだと思うかもしれませんが、わたし達は環境に視覚的な価値を加えたかったのです」
「人々が評価し、実際に街中で見たいと思うような、環境を豊かにするローリング・スカルプチャーを作りたかったのです」
そのために、このクルマは派手さを(少し)抑え、マセラティの洗練されたエレガンスにふさわしい繊細さを備えたスーパーカーとなっている。他の多くのスーパーカーとは異なり、MC20は「エアインテークやエアアウトレットが優先ではない」という。もちろん、エアインテークやエアアウトレットは装備されているが、純粋でミニマルな形をしている。
「それらは彫刻の一部になっています」とブッセは言う。
重要なのはクルマが作られるプロセス
大げさに聞こえてしまうかもしれないが、ブッセはイタリアの自動車デザインに大きな影響を与えたものとして、ルネッサンス時代を挙げている。
「ミケランジェロにとって、美は彫刻を作ることにありました。それはアルファ・ロメオにも当てはまります。進化の過程で、角ばった鋭利なものが無意識のうちにネガティブなインパクトを与えるのに対し、張りのある柔らかい形状の物体に美が見出されるようになりました」
ダ・ヴィンチがマセラティに与えたインスピレーションは、彼がエンジニアだったのか、それともアーティストだったのかという問いに起因している。
「彼の芸術は、テクノロジーの研究から生まれたものだと言えるかもしれません。わたしにとってはそれがMC20の指針となりました。確かに、クルマの表面には純粋で彫刻的なアプローチがありますが、同時に中には生のエンジニアリングに近いものがあります」
そんな中、ブッセはイタリア人ではない自分がイタリア車をデザインする権利について悩んだことがあった。
「ですが、トリノの広場で好きなエスプレッソを飲んでいたある日、エスプレッソ豆はイタリア産ではないことに気がつきました。わたしだけでなく、他の多くの人々も、自分たちをコーヒー豆とみなすことができることに気づいたのです」
「重要なのは、材料の原産地ではなく、イタリア文化を象徴する飲み物を作るためのプロセスなのです」