【開発の重要人物へ聞く】トヨタGRヤリス お手頃ドライバーズカーのベスト AUTOCARアワード2021 前編
公開 : 2021.06.21 13:45
2020年のお手頃ドライバーズカーに選ばれた、トヨタGRヤリス。チーフエンジニアへ、英国編集部が誕生秘話を伺いました。
20年ぶんの経験を失っていた
AUTOCARがトヨタGRヤリスの試作車へ試乗したのは、2019年12月。詳細テストでも高い結果を残すことは、充分に予想できる内容だった。量産版の試乗では、予想が確かな気持ちへ変わった。
2020年末に実施したお手頃ドライバーズカーのベストを決める比較試乗でも、ホンダ・シビック・タイプRやフォード・フィエスタST、8代目フォルクスワーゲン・ゴルフGTIを撃破。トヨタGRヤリスがトップの座を掴んでいる。
AUTOCARとして最終評価を下すのは、ロンドンの北、ミルブルック試験場での詳細テスト。とても厳しい評定を経て、GRヤリスは見事に満点を獲得した。驚かれた読者も、少なくなかったのではないだろうか。
どんなクルマにも、開発の重要人物がいる。トヨタGRヤリスには、ガズーレーシング・チームのメンバーが関わっていた。
「素晴らしい評価をうれしく思います。ですが、控えめな意見ながら、われわれは完璧なクルマを作れたとは思っていません」。GRプロジェクトで開発主査を務める、齋藤尚彦氏が答える。
「ゼロから開発する必要がありました。20年ぶんの経験を失っていたんです。つまり(GRヤリスは)、われわれのスポーツカー開発の始まりに過ぎません。将来に向けて良くし続けることが、重要だと考えています」
ホットハッチとして素晴らしい輝きを放つGRヤリスだが、開発は順調ではなかった。トヨタは世界最大の自動車メーカー。賢明なクルマ作りと、ハイブリッドで定評がある企業だ。ヤリスもその代表例。
世界クラスの高性能モデルを開発したい
そんなヤリスを、四輪駆動のラリースペシャル的なマシンへ作り変える。馬鹿げたアイデアだと、社内で受け止められても不思議ではない。
これを可能としたのは、ガズーレーシングと世界ラリー選手権のチームだけではなかった。会社のトップに至るまで、幅広いサポートがなければ難しいに違いない。
GRヤリスの量産に向けて原動力となった1つは、次世代ヤリスWRCのベース開発という目的。しかしそれ以上に、トヨタが世界クラスの高性能モデルを開発できることを証明したいという、CEOの豊田章男氏の決意が大きかった。
豊田氏は初代GT86やGRスープラの開発で、高性能モデルへのカムバックをリードした。さらに次の水準へ引き上げたいという思いもあった。
「彼はモータースポーツで学んだことを、自社のロードカーへ反映できることを示したいと考えていました。自分たちでスポーツカーを開発し、自分たちの工場で作りたいという情熱が、開発のカギです」。齋藤氏が説明する。
トヨタはこれまでも、レースやラリーへ積極的に参加してきた。厳しい条件を並べ、ガズー・レーシングへすべてを託したわけではない。豊田氏自ら、4年間の開発に深く関わったという。
GRヤリスの開発主査は齋藤氏だが、豊田氏こそ、その肩書がふさわしいと彼は考えている。「プロジェクトをリードしたのは彼でした。クルマのあらゆる側面を話し合い、多くの最終仕様をともに決定したのです」