【AでもRSでもなくSという選択】アウディS3セダン試乗 絶妙なハンドリングの「生っぽさ」
公開 : 2021.06.23 05:45 更新 : 2021.10.13 15:26
しなやかな足まわり 乗ってすぐ信頼感
S3には5ドア・ハッチバックのスポーツバックと4ドア・セダンの2タイプが用意されているが、今回試乗したのは後者のほう。
スポーツバックとの乗り比べはおこなっていないが、独立したトランクルームを持つ3ボックス・ボディのためセダンのスタイリングには落ち着きがある。
ただし、アウディの流儀にしたがってセダンといえどもルーフ後端がなだらかに下降するクーペ・スタイルとされている関係で、ルーフがほぼ水平のまま伸びきっているスポーツバックよりもリアのヘッドルームはいくぶん狭い。
そのかわりといっては何だが、ラゲッジスペースはスポーツバックの380Lに対してセダンは425Lと余裕がある。
しかも、ラゲッジスペースにアクセスする開口部はセダンのほうが格段に狭いので、この辺はボディ剛性になんらかの影響があってもおかしくないだろう。
試乗の舞台は箱根のワインディングロード。
期待どおり、Sモデルでも足まわりはしなやかにストロークするため、路面からのゴツゴツ感は伝わってこない。
同じ日に試乗した1Lエンジン搭載の30 TFSIに比べると、S3はスポーティモデルらしくどっしりとした印象を与えるが、それでもステアリング操作に対する反応は機敏かつ正確。
しかもロードホールディングが良好で、荒れた路面でもトリッキーな挙動を示さないため、まるで長年付き合ってきた愛車のように、走り始めた直後から思い切ってペースを上げられる。
この辺もSモデルならではのキャラクターといえる。
ハンドリングの「生っぽさ」 自信の現れ
エンジンは典型的なフラットトルク型で極めて扱いやすいが、それでもまったく退屈に感じないのは、スロットルレスポンスが驚くほど鋭敏だから。
このためパドルシフトで7段Sトロニックを操れば、いついかなるときでも欲しいだけのパワーを引き出せる。
いうまでもなく、日本のワインディングロードを攻めるのに、310psの最高出力は十分すぎるほどにパワフルだ。
一方で、この強力なエンジンが轟音を響かせないところが、いかにもSモデルらしい。
こうした洗練された所作はS3のあらゆるところに認められる。前述の快適な乗り心地もそうだが、たとえば大きな段差を強行突破しても足まわりの印象はソリッドなままで、決して微振動を残したりしないのは、このクラスではアウディだけの美点。
ステアリング・インフォメーションは豊富なのに、不快なバイブレーションが見事に遮断されているのもSモデルらしいところだ。
それでも、ハンドリング特性だけには微妙に「生っぽい」ところがあって、これがまた嬉しかった。
最近のこの手のスポーツモデルのなかには、スタビリティコントロールの機能を活用してコーナリング時のロールを抑え、これでハードコーナリング時の安定性を確保しているケースも散見されるが、S3は限界に近づけば素直にステアリング特性が変化し、ドライバーに注意信号を与えてくれる。
試しに、スタビリティ・コントロールをオフにして同じようなペースで走ってみたところ、ステアリング特性の変化はスタビリティ・コントロールがオンのときとまったく変わらず、電子制御でボディの動きを抑え込んでいないことが判明した。
これができるのも、アウディがS3のシャシー性能に自信を持っているからに他ならない。
だからこそコンピューターの助けを借りずとも、メカニズムの力だけでライバルを凌ぐ安定性とコントロール性を実現できるのだ。
横置きエンジン・モデルとフルタイム4WDを長年作り続けてきたアウディのノウハウは、こんなところにも息づいているといえるだろう。