【スカイラインは存続も】あっても売れない国産セダン かつての「主役」なぜ危機?
公開 : 2021.06.23 12:00 更新 : 2021.10.22 10:07
主役から陥落したセダン 躍進のSUV
セダンはなぜマイナーな存在になったのか。
最も大きな理由は、クルマが実用指向を強めたことだ。
セダンの外観は、エンジンルームの後部に居住空間が備わり、さらにその後ろ側に背の低いトランクスペース(荷室)を繋げている。
過去を振り返ると、1930年頃までの乗用車は、今のミニバンに似たスタイルだった(クライスラーPTクルーザーを見ると、昔のクルマがミニバンだったと分かる)。
この時にはボディの後部に荷台を装着して荷物を積んだが、流線形のトレンドに沿って荷台がボディに組み込まれ、居住空間の部分だけ背の高いセダンスタイルが確立された。
つまりセダンはデザイン重視だから、空間効率は低い。外観のカッコ良さよりも広さを大切にするなら、居住空間と荷室を一体化した方が都合が良い。
そこで第二次世界大戦後は、ワゴン(ステーションワゴン)が人気を高め、今はさらに天井を持ち上げたSUVが世界的に流行している。
日本ではSUVとあわせて、1990年代の中盤から普及を開始したミニバンも堅調に売れている。
その結果、国内の新車市場における販売構成比は、ミニバン、SUVともにそれぞれ約14%となった。そこに先に述べた軽自動車の38%、コンパクトカーの25%、セダンの7%、わずかなワゴンとクーペを加えると国内市場は完結する。
このようにしてセダンの需要は、実用重視のSUVやミニバンに奪われた。
安全面で利点 セダンの価値を見直す
以上のようにセダンの販売状況は、すべてのメーカーについて悲観的だ。
日産は「スカイラインの開発を中止」という報道を否定したものの、セダンの売れ行きは低迷している。日産の決算発表記者会見のエンディングに流れた映像を見ても、セダンは登場していない。
今は各メーカーとも、燃費規制を含めて環境性能を向上させるため、電動化技術に力を入れる。自動運転に向けた開発も急務だ。
その一方でクルマの動力性能やデザインの進化は成熟段階を迎え、以前のように1回のフルモデルチェンジにより、クルマづくりが劇的に変わることはない。
これに伴ってフルモデルチェンジの周期も長くなり、車両本体の開発費用は抑えて、環境技術や自動運転技術に集中させている。
そしてSUVは、環境技術を向上させる電動化と相性が良い。
セダンやワゴンに比べて天井が高く、床下にリチウムイオン電池を搭載しても、十分な室内高を確保できるからだ。LサイズのSUVになると、広い荷室が備わり、3列目のシートを装着することもできる。
このようにSUVは、電動化から多人数乗車まで多種多様のニーズに対応できるから、流行真っ盛りのカテゴリーになった。世界中のメーカーがSUVに開発を集中させるのも納得できる。
SUVの魅力は、2000年頃までは悪路走破力の高さと野性的な外観だったが、今はワゴン風の広い室内と電動化への対応力となった。
ただしセダンが全面的に人気を失ったわけではない。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディなどの欧州車は、SUVを充実させる一方で、セダンも定期的に刷新させている。
その理由は、欧州では日常的に高速走行の機会が多く、安全確保のために優れた走行安定性と疲れにくい運転感覚が求められるからだ。
SUVの全高は大半が1550mm以上だが、セダンは1500mmを下まわる。低重心で、後席とトランクスペースの間には骨格や隔壁があるから、ボディ剛性も高めやすい。ノイズも小さく、ドライバーの疲労を抑えられる。
このように高速道路を安全に走り、万一の危険回避も確実におこなうには、SUVやミニバンよりもセダンが優れている。
日本車でもレクサス・ブランドは、セダンのIS、ES、LSを用意するが、エンジンのバリエーションなど開発の綿密さという意味では、メルセデス・ベンツなどの欧州車が充実している。
今後のクルマづくりにSUVが適しているのは理解できるが、セダンの価値もあらためて見直したい。危険を避ける能力を含めて、安全性が高いことは、ユーザーに大きなメリットをもたらすからだ。