GMR600 アストン・マーティン V8 ヴァンテージ

公開 : 2014.03.11 22:30  更新 : 2017.05.29 18:21

■どんなクルマ?

英国南西部トーントンに拠点を構えるチューナー、GMRデザイン。彼らがアストン・マーティンV8ヴァンテージをベースにハイパワー・モデルを生み出した。その名もGMR600。

同社のオーナー、グラハム・ヒーンは元々は航空機のエンジニアで、2010年より3世代目V8ヴァンテージの前期型に搭載された4.3ℓエンジンの改造に取り組みはじめた。

車体は現存するユーズド・モデルを使用し、ベイビー・アストンの魅力的なアプリケーションはそのまま流用している。しかし、前期型の欠点を補うために彼らは低負荷、低圧力のスーパーチャージャーを開発し、さらにそれに斬新なアイデアを加えている。それが、GMRデザインが商標を有するウォーター・インジェクション・システムである。

過給圧は6.5psiに設定し、特別にプログラミングされたECUと、理論空燃費よりもリーン寄りの混合比を採用することで、4.3ℓGMR600ヴァンテージのパワーは新型のV12ヴァンテージSをしのぐ最高出力583psを発生する。さらに最大トルクは3500rpmで61.5kg-mに達するという。

アストン・マーティンによるとV12ヴァンテージの最後のモデルは0-97km/h加速が4.1秒だった。そして現行のV12ヴァンテージSは3.7秒である。このV8は、プロトタイプ車両ながら3.6秒でこれを達成してしまう。チューニング費用は付加価値税込みで£20,000(約340万円)。車体は中古車市場で手に入れることになり、相場は£30,000(約500万円)と言ったところだ。

■どんな感じ?

ウォーター・インジェクション・システムは、シリンダーに入る混合気を冷却し、燃焼効率改善と燃焼の安定性を確立するものだ。主要な構成は第2次大戦中の航空機エンジンに使用された水メタノール噴射に類似している。また、こうしたシステムはドラッグ・レース(こちらの場合は燃料がアルコールだが)の世界では今でもごく一般的である。

水はV8エンジンのインテークプレナム内へ高圧で噴射される。これによりスーパーチャージャーで圧縮された空気が大気圧とほぼ同じレベルにまで冷却される。また、現在多くのハイ・パフォーマンスカーのエンジンが行っている、燃料をエンジン内に余計に噴射することで不完全燃焼を抑制するという行程が不要になるのだ。

この噴射システムはGMRのオリジナルのECUによって制御される。一方、V8エンジンそれ自体のコントロールはノーマルのままだ。しかしマッピングに変更を加えたECUにより、ノーマルとは異なる燃料供給が行われる。

このシステムにより、高負荷時にもエンジンはインタークーラーなどの熱交換器を必要とせずに適正温度を保つことができる。また燃焼サイクルの各行程で起こる、効果的な蒸気洗浄作用によりカーボンデポジットの堆積が抑制されるという。水の残量が底をついた場合は、ECUがスーパーチャージャーを完全に停止し、ステアリング・コラム上の赤いウォーニング・ランプを点灯して水の補給を知らせる。その際は、水とメチレーテッド・スピリット(変性アルコール)を9:1の割合で混合したものを補給するのが理想的だ。

ヒーンはプロトタイプ・モデルを日常的に使い、これまでに約8万kmを走破した。「私たちGMRデザインは、信頼性があり、実用性に優れたモデルを提案したいのです。水の補給はボンネットを開き、インジェクション・システムの5.5ℓタンクに注ぐだけです。そのタイミングも、給油2回ごとに水の補給が1回というものです。水が含まれることで水アルコール噴射と同様の効果が得られ、アストンのノーマル・モデルよりも薄い混合比を採用できるのです。実際にノーマル・モデルよりも燃費は向上しています。」ヒーンはこのように言っている。GMRの実力の一端がうかがえる内容だ。

■「買い」か?

現在のところ、GMRには終わらせなければならない作業がまだ存在している。ヒーンによるとGMR600を扱うディーラー網が間もなく整備されるので、今春の後半にはオーダーに応える準備が整うということだ。

彼のビジネスは一旦回り始めれば、V12ヴァンテージSの代わりとなる£50,000(約850万円)のチューニング・カーを求める英国のスポーツカー・ファンの熱い関心を受けることになるだろう。かつてTVRオーナー達が、タスカン、グリフィス、サーブラウといったモデルに情熱を注いだように。

どのような関心からGMR600を手に入れたとしても、それは十分に満たされるだろう。型落ちの英国製クーペのエンジン・チューニングというのは、もちろん万人向けではない。それでもわれわれが知る限り、これほど将来性のあるチューニング・ワークを成しえたファクトリーというのは、それほど思い浮かばないのである。

(マット・ソーンダース)

GMR600 アストン・マーティン V8 ヴァンテージ

価格 £20,000(約340万円) (チューニング費用のみ)
最高速度 NA
0-100km/h加速 3.6秒
燃費 9.2km/ℓ
CO2排出量 NA
乾燥重量 1600kg
エンジン V8 4282ccスーパーチャージャー(水噴射システム搭載)
最高出力 583bhp/7300rpm
最大トルク 61.5kg-m/3500rpm
ギアボックス 6速マニュアル

▶ 海外初試乗 / アストン・マーティンV12ヴァンテージS
▶ 海外初試乗 / アストン・マーティンV8ヴァンテージ

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