【優雅さを増した3代目】R107型メルセデス・ベンツSL 300と350、500を乗り比べ 後編
公開 : 2021.07.18 17:45
小さなサルーンのような350 SL
今回は107型の進化を確認するべく、初期の350 SLとハイグレードの500 SL、直6の300 SLをお借りした。1970年代から1980年代にかけてのクルマの進化が、1つのモデルで理解できる。
ゴールドのボディに、同色のハブキャップが決まっている350 SLは、いかにも当時物といった風貌の1台。モデル後期の気取った雰囲気は抑えられ、1970年代らしいシックさがある。
パゴダルーフを仕上げた頃、メルセデス・ベンツはダッシュボードのプラスティック射出成形技術を習得。色味は見事にボディ色と一致している。形状の良いシートは、レザーかテキスタイルで覆われた。
後期型のSLでは、ダッシュボードのベルト部分とセンターコンソールにウッドパネルがあしらわれる。しかし、初期型の簡素な装飾の方が筆者好み。シボの多いステアリングホイールは別として。
レッドの300 SLとシルバーの500 SLともに、ステアリングは同じ4スポークのデザイン。だが、レザー巻きの方が遥かに操作性が良い。
ハードトップをかぶせた状態の350 SLの車内は、小さなサルーンのような雰囲気。シートは2脚だけで、視界は全方向に優れている。
一方で、ピンと張りのあるソフトトップをおろし、サイドウインドウを下げ、強力なヒーターで温風を浴びながら走る300 SLと500 SL。まだ肌寒い英国の田園地帯を楽しむクルマとして、とても心地良い。
ブラックマークを残し加速する500 SL
1974年式のゴールドの350 SLは、とても穏やかで紳士的に道を進む。後期のSLより良く走る。ステアリングの質感はおっとりしていて正確性に欠けるが、操作系の重み付けや感触は3台で一番優れる。
トランスミッションは、必要な能力を引き出してくれる良い相棒。DとS、Lが記されたゲート間をキチリと動く。フルード・カップリングを採用した構造で、後期の300 SLや500 SLのトルクコンバーターが生むシームレスな仕事より印象はポジティブだ。
ギア比も、350 SLの方が低い。128km/hで4000rpmに届く。発進時や追い越し時に充分な加速を得たいなら、アクセルペダルを目一杯深く踏み込むか、Lを選ぶ必要がある。
350 SLと300 SLの直線加速は充分活気があるが、驚くほどの瞬発力を備えるわけではない。たくましさでは、2台ともに同じくらい。
500 SLでアクセルペダルをフロアにくっつければ、リアサスペンションが深く縮み、ブラックマークを残しながら加速する。圧倒的にパワフルだが、シルクのように滑らかでもある。
350 SLのV8エンジンは油圧タペットの音が大きく、6500rpmまで豊かに歌声をあげる。静かな300 SLと比べると、差は歴然だった。
活き活きとした6気筒エンジンを搭載する300 SL。後期モデルの洗練されたシャシーと相まって、R107型のスイートスポットに思える。V8エンジンの魅力を知らなければ。