【ブラバムとペンスキーへ導いた】祖父のジャガーXK140 モータースポーツへの入口 前編
公開 : 2021.07.24 07:05
名門チーム、ブラバムとペンスキー・レーシングで活躍したニック・グーズ。輝かしいキャリアのきっかけとなった、ジャガーXK140を英国編集部がご紹介します。
往年のモータースポーツが香るジャガー
ニック・グーズのガレージへ一歩踏み入れると、モータースポーツで勝ち取った記念品と、家族との記念写真に出迎えられる。古き良き時代が伝わってくる。
往年のモータースポーツ・シーンとスピリットを感じ取りたいなら、ジャガーXK140ほど適役なモデルは少ないだろう。1951年と1953年にル・マンを優勝したジャガーXK120-C、Cタイプの栄光を受け継ぐスポーツカーだ。
今回ご紹介する、マルーンのジャガーXK140も例外ではない。何しろ、名門チームのブラバムとペンスキー・レーシングへニックを導いた1台なのだから。
彼のキャリアのカギとなった人物こそ、初代オーナーのハロルド・グーズ。モータースポーツに夢中になり、生涯に渡ってコベントリーが生み出したマシンを愛し続けた、ニック・グーズの祖父だ。
アマチュア・レーサーだったハロルドは、スコットランド・ラリーからRAC(ロイヤル・オートモビル・クラブ)ラリーまで、いくつものレースをジャガーSS100で戦ったという。「何台かのSS100を含む、主要なジャガーを数多く所有していました」
ニックが祖父を振り返る。「初めは、1 1/2リッターのSS。その後、排気量が大きくなっていったSSもそれぞれ。彼が残したトロフィーは今もいくつかありますが、飾らない真面目な人でした。人物像を、本当に理解することはできなかったと思います」
何台ものジャガーが祖父のもとへやってきて、旅立っていった。その中でニックが1番記憶に刻んでいた1台が、バトルシップ・グレーに塗られたXK140だった。
XK120の後継モデルとして登場したXK140
1956年10月26日、ハロルドが新車で購入したフィックスドヘッドのクーペだ。XK120の後継モデルとして発表されてから、2年後のことだった。
XK140は、先代と多くを共有していた。ウィリアム・ヘインズが設計した名機、3442ccの直列6気筒エンジンも引き続き搭載された。しかし観察するほどに、多くの進化も確認できた。
サイドビューを眺めると、エンジンとファイアウォール、ダッシュボードが75mmほど前方に移動し、プロポーションが新しくなっている。その結果、身長の高いドライバーにも不足ない車内空間と、少し大きい荷室を獲得していた。
細身のフロントグリルは、太めのバーが並ぶモノピース構造。その前部には、無骨なバンパーがぶら下がる。
シャシー側では、時代遅れ感のあったレバーアーム式ショックアブソーバーを、現代的な伸縮式のダンパーに置換。シャープなラック&ピニオン式ステアリングを獲得し、より確かなフィードバックが得られるようになっていた。
積極的なドライバーへのアピール力に、不足はなかった。「祖父のハロルドの運転で、クライストチャーチ・バイパスを160km/hで走った時は忘れられません。とてもスリリングでしたね」。とニックが笑顔を見せる。
「1960年代のクルマとして、驚くべき性能でした。普通の量産車では、その速度での巡航は難しい時代ですから。ガレージの梁には、釣り道具がコレクションされてもいました。モータースポーツへの情熱だけでなく、釣りの腕も見事だったんです」