【エンジンは850クーペ】フィアット600ムルティプラ リンゴットの屋上を走りたい 後編

公開 : 2021.07.25 17:45

本来の魅力は失われていない

ヒューエットの600ムルティプラには、低いギア比が採用されていた。21psのエンジンで6名を運ぶのに適した設定だからだ。しかし、現代の交通事情には向いていない。

14年に渡って生産されたフィアット600と600ムルティプラだが、様々なギア比が用意されていた。ギア比の高い600サルーンも登場し、767ccエンジンになったムルティプラにもよく似たトランスミッションが組まれていた過去がある。

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

後期型のサルーンには、さらに長いギア比が採用されてもいる。非常に珍しい部品だが、ジョルジオはしっかり発掘してくれた。

「ハウジングは、高圧洗浄を何度か繰り返しました。汚れが飛び散り、全身ぐちゃぐちゃになりながら。ドロ沼から引き上げたような状態でした。ドライバーでこじって、汚れを剥ぎ取る必要もありました。散々なケースでしたね」

「でも、外側を洗浄してハウジングを開けてみると、予想外に新品のようにギアはきれい。信じられないほど。オイルは金色の透明で、ギアはどれもピカピカ。すべて大丈夫そうだったのでクルマに組んでみると、完璧に収まりました」

ヒューエットが説明を続ける。「今では120km/hくらいは出ます。スポーツクーペは903ccで140km/h位を達成していました。ムルティプラは、空力的にそこまで速度が伸びません」

パワーアップを果たした600 ムルティプラだが、本来の魅力は失われていない。60年以上昔に賑やかなイタリアの街を走った時と同じように、高回転まで回るエンジンの唸りや振動と一緒に、運転できる。

旧リンゴット工場の屋上を運転したい

見た目も、もちろん買ったままではない。スペインで施された塗装のおかげで、仕事の量は増えていた。「最初に施されたレストアは、本当に困らせる内容でしたね」。とヒューエットが打ち明ける。

「前のオーナーは再塗装し、新しいインテリアを組んではいました。しかしボディを塗ってもエンジンルーム内は手つかずで、再塗装の必要がありました。もっと丁寧に仕上げられていたら、コンクールに出られたかもしれません」

フィアット600ムルティプラとオーナーのジョン・ヒューエット、息子のサミュエル
フィアット600ムルティプラとオーナーのジョン・ヒューエット、息子のサミュエル

レストアは1年間に及んだが、ヒューエットは最後まで手を抜かなかった。ビニールのインテリアは、ボディとコーディネートするような淡いブルーのレザーで張り直された。パイピングは古いソファーから流用した。

カーペットは、親切な隣人が端材を提供してくれたそうだ。当時物のルーフラックが載るが、オーク材の敷板は息子の使わなくなった2段ベットから切り出したもの。ゴム足は金型を制作し、自ら成形したという。

「可能な限りリサイクルしています。お金を節約するためというより、モノを無駄にするのが嫌いなんです」

彼の600ムルティプラに残っていることといえば、購入動機にもなった、彼の末っ子との冒険旅行くらいだ。「トリノまでムルティプラで行って、フィアットの古いリンゴット工場の屋上に残る、テストコースを運転したいと思っています」

「トリノの街も大好きです」。フィアット600ムルティプラが、親子を乗せて生まれ故郷を訪ねる日も、そう遠くはないだろう。

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