【ハイブリッドの先駆者たち】後編 完成度高いプリウス 楽しいインサイト スペシャルなXL1

公開 : 2021.07.10 21:05  更新 : 2021.07.17 02:23

改めて技術的スペックを確認した、3社の初期のハイブリッドカーにいよいよ試乗。エコカーとして理想的な走りは、必ずしも販売面での成功につながらないという、現実の厳しさをいまさらながらに痛感する結果となりました。

ハイブリッドの金字塔

text:Richard Lane(リチャード・レーン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)

この3台を一堂に並べて眺めていると、どれくらいの研究開発費が注ぎ込まれたのか考えずにはいられない。テスターのマット・プライアー曰く、新車当時は未来のクルマで、必ずしも投資の回収が保証されている、割に合うジャンルとはいえないとのことだ。

われわれとしては、どれが一番理に適ったクルマかということを明らかにしたいのだが、その答えは明白だ。理想主義的なプリウスのレガシーは、今では複数のオーナーの手を経てくたびれてしまったかもしれない。室内には得体の知れない匂いがつき、使い古されたダンパーにより乗り心地は悪化しているだろう。

ハイブリッド車の初期開発コストは莫大なものがあった。量産効果で相殺できたのは、おそらくプリウスのみだが、それも一朝一夕には達成できなかったはずだ。
ハイブリッド車の初期開発コストは莫大なものがあった。量産効果で相殺できたのは、おそらくプリウスのみだが、それも一朝一夕には達成できなかったはずだ。    Olgun Kordal

それでも、プリウスは4世代累計で600万台以上、トヨタのハイブリッドを中心とした電動車全体では1700万台以上が世界中で売れた。費やしたコストの元は取れたはずだ。

対する初代インサイトは、1万7000台ほどで生産を終了。営業的な圧力に屈し、プリウスのコピーのような2代目に跡目を譲ることとなった。

XL1に至っては、技術力を示すためだけのプロジェクトで、250台のみの限定生産だった上、その20%ほどがフォルクスワーゲンの手元に残った。ディーゼル偽装問題があった後となっては、環境対策を講じているというアピールに過ぎなかったようにさえ思える。

自動車史を編纂するなら、プリウスには1章を割くことになるだろうが、インサイトとXL1はその脚注程度にしかならないだろう。

とはいえ、初代プリウスは完璧なクルマだというわけではない。今回の13万km近く走っている個体に積まれた1.5Lアトキンソンサイクルエンジンはうるさいしゃがれ声を放つ。とりわけ加速中に、効率を最大限に確保しようとしながらもCVTが速度を上げようとして、4000rpm付近をキープしているときがそうだ。

大きなステアリングホイールを操作してからのレスポンスもきわめて遅く、乗り心地もよくはない。

シートは、インサイトよりは着座位置が高く、XL1よりは明らかにフワフワしている。しかし、厚いパッドをベロアで包んだそれはこの上なく快適だ。ゲームボーイを思い出すようなディスプレイは楽しげで、車内からの見晴らしはよく、すべてが気楽な雰囲気に満ちている。

プリウスのプロジェクト立ち上げ時、トヨタは日本の高齢化を強く意識しており、そのことが走りに表れている。ゆったり走るときのさまは、もはや芸術の域だ。

当時のトヨタでこの先進的なクルマを手がけたエンジニアたちは、生産開始ギリギリまでかけて複雑な駆動系の問題を解決したという。それを考えると、この作動のなめらかさはまさにアメージング。ギアのセレクターは見た目もフィールも線路のポイント切り替えレバーのようだが、強く引けば電力で走り出し、その後は巧みにふたつのエネルギー源のバランスを取る。

モーターは空走時にエネルギー回生を行うが、最近のハイブリッドカーのようにブレーキペダルを踏んだ際に回生効果が立ち上がることはなかった。そのため、ペダルそのものの作動が損なわれることなく、フィールはファンタスティック。精確で、パフォーマンスカーのようにカッチリしている。これには驚かされた。

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