【ハイブリッドの先駆者たち】後編 完成度高いプリウス 楽しいインサイト スペシャルなXL1
公開 : 2021.07.10 21:05 更新 : 2021.07.17 02:23
燃費もその代償も桁違い
ただし、プリウスはスポーティさに物足りなさがあるだろう。だとすれば、その点でまったく異なるのがXL1だ。
実際、本質的にスポーツカーとするのに最適なパッケージに目をつけ、フォルクスワーゲンは興味深いプロトタイプを製作している。トレッドを拡大し、115幅の低抵抗タイヤを履き替え、200psを叩き出すドゥカティ1199スーパーレッジェーラのLツインを積んだXLスポーツがそれだ。
この試作車が市販化されたらさぞかし楽しませてくれたことだろう。ただし、70psのディーゼルハイブリッドを搭載したXL1でも、走らせると深い満足感が得られる。
乗り心地は荒っぽいが、速度が上がれば減衰がなめらかに効き、ノンアシストのステアリングとフロントのダブルウィッシュボーンが相まって、すばらしいコミュニケーションをもたらしてくれる。
決して速いというほどではなく、25psのモーターアシストが効いたところでスロットルレスポンスは曖昧だが、挙動はどこかロータス・エリーゼを思わせるものがある。スイスイ走るが、ドライバーはちょっとばかりワークアウトのような体験を味わうことになる。
ただし、111km/Lという驚異的な燃費は、かなりの犠牲の上に成り立つものだ。モノコックの剛性が高く、遮音材などは省かれ、インテリアはウッドパルプのダッシュボードなどで80kgと軽く仕上がっている代わりに、ロードノイズが激しい。ほとんど風切り音はないのだが。
2気筒ディーゼルは、ポロの1.6LアルミTDIを半分にしたもので、振動はあまり伝わってこなかったが、音に関しては船外機用の2ストロークエンジンのようだ。
ミラー代わりのカメラが捉えた映像は、コースターくらいの大きさのディスプレイに映し出される。ただし、万が一それらが故障すると、後方視界はランボルギーニ・アヴェンタドールSVJ以下だ。
ほとんど重さを感じないガルウイングドアはすばらしくドラマティックなアイテムだが、跳ね上げるとそこには美しくも幅広いカーボンのシルが現れる。多少身をかがめながらそれを跨いで、窮屈なコクピットに潜り込むのはおっくうになる。
スーツケース並みに大きい充電用インバーターを持ち歩かなくてはならないのもめんどくさい。それさえなければ、ラゲッジスペースはポルシェ911より大きい。もっとも、とりたてて使いやすいというわけではないが。
ある意味、エコカーの理想形
XL1に比べれば、インサイトのほうがずっと普通のクルマだ。おそらく、こういっては不公平だが、パイオニアスピリットの度合いは低い。まず、その寸法からしてそうだ。きれいなテーパーで、空力性能を高めているティアドロップ形状だが、それほどおおげさではない。
XL1は、その点がもっと極端だ。プライアーが乗って後方を走っていたとき、坂を越える際にインサイトのルームミラーへ前後輪の間がすべてハッキリ映り込んだのは驚きだった。
とはいえ、インサイトのパッケージングが普通のクルマのようだとしても、ドライビングポジションだけは低い。そこだけは同時期に同じ工場で造られていた、S2000やNSXに近いものがある。
走らせると、ほぼプリウスと同様にイージーゴーイングだが、打てば響くところはXL1に近い。敏感なステアリング、サスペンションから聞こえてくる音、豊かなハンドリングバランスがあり、さらにはうれしいことに3ペダルで、精度の高いMTのシフトレバーが備わっている。
スロットルレスポンスは最新のマツダ・ロードスターにさえ肩を並べ、ほかの2台の及ぶところではない。これはいいホンダ車だ。ただし、乗り心地には難ありだが。
となると、インサイトはスイートスポットな一台だといえるだろうか。物理的にはクレバーだが、近寄り難いというほど突き詰められたものではない。洗練されているが、ユーザーの95%を門前払いにするほど高価ではない。驚くほど経済的だが、その気になれば走りも楽しめるに十分なエンジニアリングのクオリティも持ち合わせている。そして、軽量だが非現実的ではない。
今見ても、各メーカーは初代インサイトを見習うべきだ。1500kgもあるコンパクトEVなど造っている場合ではない、というのが個人的な感想だ。クルマを評価する仕事を抜きにして、買う立場であっても同じことを言うだろう。