【ハイブリッドの先駆者たち】前編 ファミリーカーからスーパーカーまで 黎明期のハイブリッド再検証
公開 : 2021.07.10 11:05 更新 : 2021.07.17 01:58
エコとスポーツの好バランス
最後はホンダの小さなハイブリッド、インサイトだ。ちょうどXL1とプリウスの中間といったところ、というのは、価格ではなくコンセプトの話。もしXL1を考慮に入れなければ、これはもっと目を引くクルマになるだろう。少なくとも、プリウスよりは見飽きないデザインだ。
インサイトには特徴的なリアスパッツをはじめ、空飛ぶ円盤を思わせる14インチのアルミホイールやエレガントなカムテールを形成するガラスのテールゲート、薄く口を開けたグリルなど、ルックスに見どころが多い。そして、それらすべてが相まって、0.25という優れたCd値を達成している。
もちろん、この点についてはXL1が0.18という驚異的な数値を叩き出していることに言及しないわけにはいかない。これは、現行の量産車においてトップであるメルセデスEQSの0.19をも凌いでいる。しかも空力は、あの巨大なEVより、XL1のような小さいクルマでそれを成し遂げるほうが難易度は高い。
ホンダが産んだ効率命の2シーターに乗っていると、ガラスハウスからの眺めが好きになってくるはずだ。そのおかげでキャビンには開放感がもたらされ、XL1の室内より心地よく過ごせる。しかもリアが絞り込まれたボディワークにより、ホイールハウス周りはスポーティなブリスターフェンダーのように見える。
目に見えないところにも魅力はある。アルミボディのインサイトは燃費スペシャルかもしれないが、たった995ccの3気筒とはいえ、6000rpm回るVTECエンジンを搭載。IMAと呼ばれるハイブリッドシステムは、6cm厚の電気モーターをエンジンと専用の5速MT(もしくはCVT)との間、すなわち通常ならフライホイールが備わる位置に組み込んでいる。
プリウスやXL1と違うのは、3.5kg-mのモーターだけでの走行はできないことだ。電力はあくまでアシストで、低回転域でもっとも効率的に機能する。その効果は、驚くほど高回転型の超小型ターボをつけたようだ。
このパワートレインの先進的な部分は、電気モーターだけじゃない。エンジンの吸気マニフォールドとバルブカバーなどは、樹脂素材を採用して軽量化。マグネシウムのオイルパンは、重量を削減しながら、薄肉スリーブ構造で小型化したブロックを補強するという副産物も得られた。当時、1.0Lユニットとしては世界最軽量だと謳っている。
燃焼室内では、混合気に一般的なエンジンより強いスワールを発生させ、リーンバーン運転を実現。29.4km/Lの公称燃費は、これよりパワーの低い当時のフォード・フィエスタに積まれた1.3Lのじつに倍だった。
最高速度は180km/h止まりだったが、ギア比からは283km/hに達する計算。1100kgのフィエスタよりかなり軽い835kgのウェイトと優れた空力性能もあって、コンディションが整っていれば、40Lタンクのフル給油で1050km近く走れることになる。ロンドンからベルリンまでノンストップで走り切れる、ということだ。
しかもキャビンのホスピタリティは完備され、1999年当時の最新装備はフルに備わる。これに乗っていたならば、ピエヒの長距離ドライブはもっと快適だったことだろう。