【走破性だけではない】デビューは36年前 トヨタ・ランドクルーザー70が今でも生産されるワケ

公開 : 2021.07.11 05:45  更新 : 2021.10.13 12:02

走破性だけではない 70でないといけない2つのワケ

1つは価格。

現行モデルとなる200系の日本での販売価格は500万円弱から。

世界の悪路で活躍するランドクルーザー(写真はアンゴラの車両)
世界の悪路で活躍するランドクルーザー(写真はアンゴラの車両)    シャッターストック

日本でも高額な車両であり、たとえ装備を簡略化した仕様を作ったとしても物価の安い新興国ではさらに割高な車両となってしまい、多くの人には手が届かない。その点、シンプルならランクル70なら最新のランクルより価格が安いから手が届きやすい(中古も含めて)。

もう1つは、信頼性と耐久性、そして整備性へのこだわりである。

世界の頂点に立つほどの悪路走破性の高さから「世界にはランドクルーザーでないと行けない場所がある」といわれ、同時にそんな場所では「ランドクルーザーが止まると命を失う」という人もいる。

人もめったに通らないような極地の道において、クルマの故障はすなわち乗員の死を意味するのだ。

そうならないためにはクルマには信頼性と耐久性が欠かせないのだが、構造がシンプルなランクル70は命を預けるのにうってつけなのである。

構造がシンプルだと、まず故障が少ない。

たとえば期間限定で日本に導入されたランクル70は悪路走行系の電子デバイスを持たないだけでなく、サスペンションも4WDシステムもコンベンショナルな機械式で「走行機能系の電子制御はABSのみ」という潔さだった。

よって電子制御系のトラブルで走れなくなる心配はほぼない。

電気仕掛けがないことで、修理作業に特殊な技術や機器もいらないから、故障しても修理が簡単にできるようになる。

また、完成されたシンプルなメカニズムは寿命だって長い。これは機械として考えたときにとても重要である。

ランクル70には「壊れないし修理しやすく長寿命」という、「現代のクルマ」には真似できないメリットがある。最新のランドクルーザーも含め「ほかに変わるクルマがない」のだ。

だから、いまだに世界各地で活躍しているだけでなく、生産/販売も続いているのである。

70がないと生活できない人のために

トヨタ以外の車両をみると、少し前まで、ランドクルーザー70と同じ役割を担っていたのはランドローバーの「ディフェンダー」だった。

悪路走破性が高いうえに構造がシンプルで、値段も控えめ。たとえばアフリカのサファリツアーの様子などを見ると、使われているクルマがランクル70もしくは旧型ディフェンダーという状況はよくある。

トヨタ・ランドクルーザー(1984年に登場した当時のモデル)
トヨタ・ランドクルーザー(1984年に登場した当時のモデル)    トヨタ

しかしディフェンダーは2019年に70年ぶりの完全新設計として新型へ切り替わり、遡って2013年には従来モデルの生産も終わっている。

新型はシンプルな旧モデルとはまったく異なる今どきのクルマなので、もう極地で使われることはないだろう。

すなわち、本当に質実剛健が求められる場所ではランクル70以外に選択肢がなくなってしまったというのが現状なのだ。

単純に商売を考えれば、高いクルマだけを売ったほうが効率はいいだろう。それはトヨタだって同じだ。

しかし、トヨタのまじめさは「そこにニーズがあるなら、その人たちからクルマを奪いたくない。ランクル70を失うことで困る人を生みたくない」という精神。

世の中には少なくない数の「ランクル70がなければ生活ができない」という人がいて、その人たちに向けた誠意なのだ。

それは「クルマで多くの人を幸せにしたい」というトヨタの願いを具現化したトピックといっていいだろう。

デビューからもうすぐ40年。もはや生きた化石となりつつあるランクル70だが、いまだに作り続ける背景には、そんな事情があるのだ。

記事に関わった人々

  • 工藤貴宏

    Takahiro Kudo

    1976年生まれ。保育園に入る頃にはクルマが好きで、小学生で自動車雑誌を読み始める。大学の時のアルバイトをきっかけに自動車雑誌編集者となり、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。はじめて買ったクルマはS13型のシルビア、もちろんターボでMT。妻に内緒でスポーツカーを購入する前科2犯。やっぱりバレてそのたびに反省するものの、反省が長く続かないのが悩み。

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