【懐かしさと洗練さの同居】ランドローバー・ディフェンダー90 HSE P300試乗
公開 : 2021.07.12 06:25 更新 : 2021.10.11 14:49
ネガが消えた? 「ショート」で実現したもの
今回の試乗会ではめずらしく水深20cmほど(渡河限界は90cm)の池の中を通過するコースが設定され、迫力あるシーンを提供してくれた。
だが実際に90の購入を迷っている人には万が一の話より一般道の印象の方が重要だろう。
新型110のガソリンモデルはこれまで数回ドライブしており、強固なボディとストローク感のあるアシ、そして最新のテレインレスポンスによる「滑らかな万能感」にポジティブな印象を抱いていた。だが初ドライブした新型90の走りは、110を凌駕していた。
ホイールベースが435mmも短いと、曲がりやすいが直進安定性が損なわれそうな先入観を抱かずにおれない。
だが直線では110と同レベルにピタッと安定し、横風にふらつくこともない。
一方コーナリングは110以上に素直に曲がってくれる。恐らく後輪に110よりも大きめのトーインを付けることで対処しているのだろう。
これは70年前の設計をそのまま踏襲していた先代モデルには真似のできなかった芸当といえる。
パワーユニットとの相性にもわずかな違いが感じられた。
110のP300(ガソリン)でワインディングを走ると、車重の影響で微かにターボラグが強調され、滑らかさに欠けるシーンがあった。
ところが110より140kg軽い90ではその微かなネガが消えていたのだった。
生活必需から知的冒険者のためのオモチャへ
90と110との走りの違いはある程度スペックからも予測がつくものだが、その違いによってどちらを買うか決める人は稀だろう。
両者の違いは911カレラと911GT3以上のものだ。別荘とマウンテンバイクくらいの違いがある、つまり別物と捉えたほうがいい。
原初のランドローバーは田舎暮らしに欠かせない道具として普及した。
だが現代の90は性能こそ格段に向上しているが、もはや生活必需とはいえない。
これは知的冒険者のためのオモチャだ。価格帯は違うが、ジムニーを欲しがる気持ちに通じるものがあると思う。
一方、ランドローバーのショールームで90の実車と対面した時、四駆原理主義者の誰もが「これにディーゼルエンジンが載っていたら」と思うはずだ。
筆者もその質問をしたのだが、導入の予定はないそうだ。
実際にガソリンで充分にバランスが取れていたし、世界の自動車事情を鑑みれば「素のディーゼルなんて何を今さら」という見方もあるだろう。
小まわりはきくがドアの張り出しが大きいので、普段使いでは少し面倒なことがあるかも。
実際の販売台数も110より少ないはずだが、それでも90はレンジローバーと肩を並べるランドローバーのアイコンだ。
これを20年乗って免許を返納したい、そんなクルマ好きアラフィフがいてもカッコイイと思う。
ランドローバー・ディフェンダー90 HSE P300のスペック
価格:758万円
全長:4510mm
全幅:1995mm
全高:1970mm
ホイールベース:2585mm
車両重量:2100kg
パワートレイン:直列4気筒1997ccターボ
最高出力:300ps/5500rpm
最大トルク:40.8kg-m/2000rpm
ギアボックス:8速オートマティック