【992型GT3のベスト】ポルシェ911 GT3ツーリングへ試乗 深く記憶に刻まれる 後編
公開 : 2021.07.17 19:05
最新992型ポルシェ911 GT3へ追加となったツーリング。大きなウイングの載らない、公道へ若干シフトしたGT3を、英国編集部が評価しました。
深く記憶に刻まれるドライビング体験
ポルシェ911 GT3ツーリングのダンパーは、スポーツでも高速域なら滑らかさがある。長年の開発の積み重ねでしか得られないような、ドライバーに自信を抱かせてくれる豊かなコミュニケーション力も備わっている。
9000rpmまで吹け上がる、4.0LのNAフラット6も鮮烈。ドライビング体験は、ケーターハムやロータス級に中毒性がある。6速MTのGT3ツーリングとの時間も、深く記憶に刻まれるものだ。
ミドシップのような純粋さと俊敏さを感じると同時に、911らしい操縦特性が根底にある。アクセルオンでは、リアタイヤが巨大なスタビリティを生み出し、グリップ限界内ならアクセル操作でフロントノーズを繊細に導ける。
この挙動は、レースカーにも近い。ステアリングでクルマの向きを定め、アクセルペダルの加減でラインを整えていく。これを、現実的な速度域でも楽しめる。ドライバーの手と足の延長のように。
さらに最新のポルシェ911として、先進的な技術も整えられている。ポルシェが一般道に合わせてチョイスした、ピレリPゼロやグッドイヤー・イーグルF1のタイヤを組めば、寒い雨の日での信頼感は一層高くなる。
濡れた路面で、グリップとスリップとの間を楽しむのも、より簡単になるはず。サーキット走行に打ち込む予定がないなら、シリアスではないタイヤを検討する価値はある。
ただし、GT3ツーリングの真価を発揮できるのはサーキット。現実的な速度域で楽しめるといっても、全体の能力からすれば上澄み程度。ギア比は素晴らしいが、2速のレッドラインで128km/hに届いてしまう。
ノイズと過敏さ、乗り心地はマイナス
5000rpmを超えた辺りから、外科用メスのようにシャープなフラット6の本領が見え始める。甘美な体験には、相応のリスクが必要になってしまう。
さらに悩ましいのが、優秀なシャシーがゆえに、高い速度域へドライバーを誘うこと。興味をそそるS字カーブが迫ると、思わずシフトダウンし、旋回させながら外側のタイヤへ荷重を移動。出口めがけてアクセルを踏み込み、パワーとノイズを解き放ちたくなる。
楽しいと思えるすべてが、ドライバーを包む。しかしスピードメーターをふと見ると、英国でも公言できない速度域に達している。吸気音が、バルブトレインのメカノイズに消されてもしまう。991型以上に、もどかしさを感じるだろう。
また前半に並べたとおり、いくつかのマイナス点もある。大きいノイズと過敏なステアリング、硬い乗り心地だ。
比較として、GT3ツーリングの前日にGT3クラブスポーツを試乗したのだが、ロールケージがないことで、平坦ではない路面ではボディへ伝わる振動が少なく、共振音などの鳴りも小さい。しかし、最新のGT3を運転するということに変わりはない。
ラップタイムを縮めていても、ツーリングとしてのドライビング体験には角がある。運転自体が特別なイベントになる。オーナーは、それを受け入れなければならない。