【骨の髄まで一体感】「アトリエ・アルピーヌ」仕様 アルピーヌA110試乗

公開 : 2021.07.19 11:55  更新 : 2021.10.09 23:31

アルピーヌA110のアトリエ・アルピーヌに対面。人馬一体の感覚が魅力です。選べる色が減っているとか。

あれ、アトリエ注文したっけ?(汗)

text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

当日のお題はアルピーヌA110、とだけ聞かされていたので、現場に着いて目の前に現れたA110を前に、筆者は絶句した。

リネージには間違いないのだが、「チューリップ・ノワール」という紫色ボディカラーに、ゴールドの「セラック」18インチホイールを履いた、70s風にパンチの効いた1台だったのだ。

アルピーヌA110
アルピーヌA110    山本佳吾

これは過去のアルピーヌのカタログから厳選されたヘリテイジカラーと呼ばれる29色の外装、ブラックかダークブラウンのレザー内装、3色のホイール数種に4色のブレーキキャリパー等々、それぞれを好みで組み合わせられ、ディエップ工場で1台づつ組み上げられるという「アトリエ・アルピーヌ」仕様。

このパーソナライズ・プログラムの実例として、アルピーヌ・ジャポンが取り寄せたオーダーサンプルで、当然、広報車の1台だ。

とはいえ何を隠そう、じつは昨年11月にアトリエ・アルピーヌが立ち上がった頃、筆者がコンフィギュレーターであれこれ選んで真っ先にできた「マイA110」が、他でもないチューリップ・ノワール&ゴールドホイール仕様だったのだ。

その後、茶系やブルー系に変節したとはいえ、証拠にスクショしていた画像も数枚ある。

ホイールはよりクラシックな「レジェンド」18インチを選んでいたとはいえ。そんなものを保存してあること自体、個人的にA110には相当ツカまれている証拠ではある。

だから、自分の妄想仕様たるA110リネージが突如、リアルの世界に現れて、「注文したっけ?(汗)」という錯覚に襲われ、焦った。

趣味を見透かされたと同時に、「その癖、まだ注文していないのか?」と、暗に詰め寄られているようで。

こう書くとイヤらしいが、筆者はこれまでA110に5000km近く試乗して、その大半はフランスで、アルプスの峠道ばかり1000km超という、およそアルピーヌの何たるかを味わうのにこれ以上ないであろう経験もしてしまった。

だから五輪直前期でポリスだらけ、かつ小雨降りしきるお台場でチョイ乗りしたところで、何か新しい印象が今さら沸くだろうか? と。

スポーツカーとしての、スジのよさ

だが紫&金仕様のA110に乗り込んで、1つ目の角を曲がって早々に、身体が思い出してしまった。

交差点を直角に曲がっただけなのに、ステアリングを軽く押す手のひらから、サベルトのレザーシートの抜群のサポートに支えられた肩甲骨から骨盤へ、さらに足先までが一気に繋がる感覚。脊椎を中心に操舵が効いて、その応力と後輪駆動の感触が、腰回りに鮮明に伝わってくる、あの一体感がまざまざと、強烈に蘇ってきたのだ。

アルピーヌA110のフロントスクリーンの枠にプリントされた切り欠き。
アルピーヌA110のフロントスクリーンの枠にプリントされた切り欠き。    山本佳吾

街乗りごときで、ドライバーをかくもハッピー方向によろめかせるのは、運動体としてクルマとしてスポーツカーとして、そのスジのよさに尽きる。

ベクタリングとか制御といった小手先で誤魔化すところが、一切ないのだ。

やっぱりこの先、長いこと所有したくなる&つき合えるスポーツカーを手に入れるのに、残価設定ローンはありえないよな……と確信させられる。しかもボディカラーから自分好みに仕立てられたのなら、尚更だ。

もう1つ、A110が低速域でもドライバーの感覚を研ぎ澄ませる小さなディティールとして、前々から気づいていたのだが、字数の関係で触れなかったことにも触れておく。

それは、フロントスクリーンの枠にプリントされた切り欠きがあること。

これはステアリングセンターと重なり、剣道で切っ先を相手の喉に合わせる中段の構えのように、路面に対してステアリングの中立位置を無意識に意識させる照準というか、目印となる。

そもそもコーナリングマシンらしい細部だし、パワーや小手先で備える以上に、目の前の道に構えを正して対峙する武道のような感覚の方が、スポーツカーの基本に相応しいと思う。

妙な言い方は百も承知だが、人間でいう「人品骨柄」にあたる「車品骨柄」部分の卑しからぬところ。そういう造り手の堅固な意志やセンスよさが反映されている点に、A110の根源的な魅力がある。

軽さや重量配分、アーム長たっぷりのサスペンション・ジオメトリーといったフィジカル面はもちろん、低速域から扱い易くエレガントな挙動は、品位や品格とは獲得するものでなく、結果としてついてくるもの、そんな元々の性格づけを語る。

記事に関わった人々

  • 南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。
  • 山本佳吾

    Keigo Yamamoto

    1975年大阪生まれ。阪神タイガースと鉄道とラリーが大好物。ちょっとだけ長い大学生活を経てフリーターに。日本初開催のWRC観戦をきっかけにカメラマンとなる。ここ数年はERCや欧州の国内選手権にまで手を出してしまい収拾がつかない模様。ラリー取材ついでの海外乗り鉄旅がもっぱらの楽しみ。格安航空券を見つけることが得意だが飛行機は苦手。

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