ブランド最速制御の四輪駆動システム

姿勢制御も驚くほど煮詰められており、ボディロールの発生は漸進的。カーブへ侵入し、横方向へ掛かる力が増大するのに合わせて、緩やかに傾いていく。

シャシーのバランスも素晴らしい。タイヤのグリップが抜ける限界までのコーナリングスピードは、相当に高いようだ。

このバランスを生んでいるのが、50：50に近い前後の重量配分。見事なチューニングを受けたサスペンションが、大きな質量を完璧に制御してくれる。ドライブモードに関係なく、常に感心するほどしなやかでもある。

メルセデス・ベンツのどんなモデルに搭載されるものより、素早くタイヤ4本に加わるパワーを制御できるという、電子制御の四輪駆動システムも秀逸。驚異的なトラクションを生み出し、コーナーの出口手前からEQSの有り余るパワーを放出できる。

トルクベクタリング機能も、当然のように備わる。リアタイヤ左右のトラクション具合や回転速度に応じて、個別にパワーが調整される。

可変ダンピング・コントロール付きのエアマティックと呼ばれるエアサスも、絶妙な落ち着きとしなやかさを実現している。EQのSに相応しい、本物の快適さを生んでいる。

波打つような路面では、抑え込むべき質量が多いためか若干フワ着いた印象が残り、平穏さでは最新のSクラスへ完全には並んでいない。それでも衝撃を見事に吸収し、路面と車内空間とを分離してくれている。

今の世界で最も能力に長けた電気自動車

高速でも、風切り音はほぼ聞こえてこない。ロードノイズも、殆ど車内には伝わらない。試乗車は21インチの265/40というサイズのタイヤを履いていたが、ノイズはささやくように響く程度。静かなパワートレインの印象を、引き立てている。

この車内の洗練性だけで、EQSを選びたいと考えても不思議ではない。

ブレーキペダルの感触も良好。踏み心地は従来のEQモデルから進化し、同ブランドのPHEVより確かな制動感が得られる。回生ブレーキが同時に機能しているにも関わらず、違和感なく狙い通りにスピードを落とせる。

EQSは、メルセデス・ベンツが仕上げた、純EV技術の教科書のようなモデルかもしれない。最新の専用プラットフォームを採用した恩恵を、完全な形で受けている。従来のEQモデルにはなかった、完全性が備わっている。

EQのSだから、価格は既存のSクラス並みに高い。英国では、EQS 450＋に8万ポンド（1232万円）以上、EQS 580 4マティックに10万ポンド（1540万円）以上の値段が付くと予想される。

しかしこの価格で、最先端の純EVを代表するようなモデルが手に入るとも考えられる。しかも、ラグジュアリー・サルーンという市場に、完璧に適合したモデルでもある。

すべてが研ぎ澄まされ、感取されるような妥協はほぼない。知覚品質は極めて高い。真のメルセデス・ベンツと呼ぶにふさわしく、恐らく今の世界で最も能力に長けた電気自動車だといって構わないだろう。

メルセデス・ベンツEQS 580 4マティック（欧州仕様）のスペック

英国価格：10万ポンド（1540万円）以上（予想）
全長：5216mm
全幅：1926mm
全高：1512mm
最高速度：210km/h
0-100km/h加速：4.3秒
航続距離：675km
電費：4.6-5.4km/kWh
CO2排出量：−
車両重量：2510kg
パワートレイン：ツイン同期モーター
バッテリー：107.8kWh
最高出力：523ps
最大トルク：86.9kg-m
ギアボックス：シングルスピード

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