【真のアメリカン・スポーツ】デュポン・モデルG スピードスター 5.3L直8でル・マン参戦 後編

公開 : 2021.08.22 17:45  更新 : 2022.08.08 07:26

ベントレー・スピードシックスに似た質感

シメオネは、マーサー・レースアバウトやシェルビー・コブラ・デイトナまで、多彩なスポーツカーコレクションを所有している。その中に2台のデュポンが含まれていることにも、明確な意味がある。

「加速は素晴らしく、コンチネンタル・モータース社製のエンジンもパワフル。速さでは劣りますが、ベントレー・スピードシックスに似たフィーリングです。ブレーキは力強く、リジッドアクスルのサスペンションは乗り心地も悪くありません」

デュポン・モデルG スピードスター(1929年/北米仕様)
デュポン・モデルG スピードスター(1929年/北米仕様)

「デュポンは優れた品質を求めていました。ブレーキにトランスミッション、エンジンなど、得意とするメーカーの製品を適切に組み合わせ、裕福な顧客へ提供されていました」。シメオネが続ける。

「スタッツが高性能モデルの製造を中止して以降は、アメリカでは唯一、スポーティなクルマだったといえます。匹敵したライバルは、オーバーン・スピードスターくらいでしょうね」

そして今回ご登場願ったモデルG スピードスターは、1929年にロサンゼルスへ納車された別の1台。当時の価格は5335ドルだったという。ピーターセン自動車博物館を創設したロバート・ピーターセンが買い取る1980年代後半までは、放置されていたようだ。

モデルG スピードスターは展示前にレストアを受けたが、2015年に博物館の改修を受けると、限定公開コレクションとして地下室にしまわれた。アルミニウム製のボディに、流れるような高い位置のフェンダーと、塗装されたラジエターカウルが特徴だ。

アメリカ製の真のスポーツカー

大規模な自動車博物館ですら、デュポンにお目にかかることは難しい。ロサンゼルスの路上で目撃するなど、一生に一度限りの体験だろう。

ピーターセンのコレクションを維持管理するダナ・ウィリアムソンが、ウィルシャー・ブールバードをデュポン・モデルGで流す。運転席の位置は高く、眺めは良い。現代のロサンゼルスの交通に混ざるのにも助かる。

デュポン・モデルG スピードスター(1929年/北米仕様)
デュポン・モデルG スピードスター(1929年/北米仕様)

アールデコ調の歴史的な建築を鑑賞するのにも、適切な交通手段だ。車重は2t近くあるが、直列8気筒エンジンは威勢が良い。0-97km/h加速は16秒、最高速度は160km/hだという。

4速MTは、ダブルクラッチなしでもきれいにシフトダウンできる。乗り心地は硬めで、舗装の剥がれやマンホールを通過すると、ビンテージな揺れが伝わる。

ステアリングは小回りが効かず、3.5回転のロックトゥロックで、操舵にはかなりの筋力が求められる。対象的に、軽く踏めるペダルの油圧ブレーキは強力。ロッキード社製で、この年代のモノとしてはお手本のよう。

博物館の展示コレクションとして、近場の渓谷まで走ることは許されていない。モデルG スピードスターのハンドリングを、充分に試すことは難しい。当時のレポートでは、フロントが重いにも関わらず、バランスは印象的に良かったと残されている。

ル・マンとインディ500を戦ったデュポン・モデルG スピードスター。カーティス・クラフトやブリッグス・カニンガムなど、アメリカン・スポーツが開花する直前、予兆を示す貴重なモデルだったことは明らか。

1920年代末に生まれた、アメリカ製の真のスポーツカーだ。

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