【詳細データテスト】マセラティ・クアトロポルテ エンジンは秀逸 明確な剛性不足 運転環境も不備が
公開 : 2021.08.14 20:25 更新 : 2021.09.05 19:09
意匠と技術 ★★★★★☆☆☆☆☆
1963年、初代クアトロポルテ4200にV8を搭載したマセラティは、パフォーマンスサルーン市場のパイオニアを自負している。現行モデルは、2013年にフェラーリ由来の精巧な3.8LツインターボV8を積むクアトロポルテGTSを投入。このエンジンはチューニングされて、2018年にレヴァンテ・トロフェオへ搭載され、これが今回のクアトロポルテ・トロフェオにも使用されている。最高出力は580ps、最大トルクは2250~5250rpmで74.4kg-mを発生する。
このエンジンのシリンダーブロックは、フェラーリのF154系だが、マセラティ独自設計となるクロスプレーンのクランクシャフトと専用カムシャフト、高タンブル設計のシリンダーヘッドを装備。ウェットサンプの潤滑系、パラレルツインスクロールターボチャージャー、インタークーラー2基掛けの吸気システムもマセラティ専用だ。
もしも偉大なスーパーサルーンの基礎がすばらしいパフォーマンスのエンジンにあるのなら、このV8ユニットが前提にあるこのクルマには、間違いなく成功を期待できるところだ。
しかし、それ以外はどうだろうか。そのルックスは、いかにもドーピングされたような、エアロパーツでガチガチに固められた速い4ドアという仕立てではない。これはマセラティが、真に洗練されたイタリア車がそうであるように、アグレッシブさとエレガンスをあわせ持つヴィジュアルこそがこのクルマのキモだと考えたからだろう。
とはいえ、テスター陣の感想は、あまりにも安全策に走りすぎたのではないだろうか、というものだった。このトロフェオは、リアスポイラーやボンネットのルーバーといった、スーパーサルーンのスタイリングにありがちな付属物を追加せず、21インチの鍛造ホイールを履いていながらも本気のスポーツモデルらしい踏ん張りが感じられない。間違えて中間グレードを借りてきたのではないかと思ったテスターもいたくらいだ。
多種金属混成のシャシーは標準モデルと同じで、その前半部に積まれるZF製8速ATもまた同様だ。ブレーキはディスクもキャリパーも拡大され、レートを高めたコイルスプリングとプログラムを変更したスカイフックダンパーを採用する。このダンパーの制御用ソフトウェアは、一般的なアダプティブダンパーより広範囲のデータを処理するものだ。タイヤは、専用設計タイプのピレリPゼロを履く。
走行モードには、コルサモードが追加された。これを選択すると、エンジンやトランスミッション、ステアリング、そしてスタビリティコントロールのセッティングが、ハイパフォーマンスを引き出すドライビングに最適化される。
その重量や旋回挙動、慣性を制御するようなデバイス、たとえば四輪操舵やアクティブエアサスペンション、アクティブスタビライザーなどは用意されない。言い換えるなら、ライバルメーカーが大きく、重く、ホイールベースの長いクルマを、実際より小さく俊敏に感じさせるためのトリックを、マセラティは用いなかったということだ。スタビリティや安心感をもたらす4WDも採用しなかったが、その代わりに純粋な後輪駆動の走りを味わえる。