【詳細データテスト】マセラティ・クアトロポルテ エンジンは秀逸 明確な剛性不足 運転環境も不備が
公開 : 2021.08.14 20:25 更新 : 2021.09.05 19:09
走り ★★★★★★★★☆☆
このクルマ最大の価値は、曲線的で波打ったボンネットの下に鎮座するツインターボV8にある。ドライビングにおけるメインイベントであり、走りのキャラクターを圧倒的に支配する存在だ。そして、見せる顔はひとつではない。
走り出しは驚くほど控えめで、ゆったり流していればとても静かに回る。いっぽうで8速ギアボックスは、リバースへ入れる際の打撃音に悩まされることがあり、軽いスロットル負荷をかけると、ヒュンヒュンという回転ノイズが駆動系の後部から多少ながら響いてくる。クアトロポルテがもっとも洗練された部類のスーパーサルーンとは思えない所以だ。
走行モードはデフォルトのセッティング以外に、スポーツとコルサ、そしてICEが選択できる。最後のそれは凍結路などではなく、インクリーズド・コントロール・アンド・エフィシエンシーの略。すなわち抑えを効かせて経済性を高めるモードだ。
スポーツを選ぶと、いかにもV8エンジンらしい、朗々たる深みのあるサウンドが響く。コルサでは音量がさらに一段引き上げられるが、メルセデスAMGやジャガーSVRのようなレベルの威嚇的なものではない。
力強く、トルクが膨れ上がるような出力特性は、クアトロポルテのようなサイズと位置付けのクルマにピッタリだ。中間ギアに固定して、中回転域からスロットルペダルを深く踏み込むと、それに反応して前へ飛び出していく様は、古いドラム缶に溜まった雨水があふれ出すような感覚である。
最初はややゆっくりめのソフトな加速感だが、その後は勢いが増していき、最終的にはクルマが進んでスピードを出したがって、もはや止めようがないような状態になるのだ。
最新のターボユニットにはスロットルレスポンスの鋭いものもあるが、このエンジンはそうではない。しかし、十分に従順で、回りたがり、6000rpmを超えてもとても軽やかに回転が上がっていく。
対照的にギアボックスは、パドルシフトでのスムースさに欠け、変速が遅い。また、このクルマのパフォーマンスを、磨き上げるどころか鈍らせているようにすら感じられる。低回転域や、マニュアルモードでの最大負荷時に5速以上をホールドすることができず、固定ギアでの加速データを完全に揃えることができなかった。
動かすべき重量が大きく、駆動輪がリアのみで、ピレリのタイヤが過剰なスペックではないため、いまどきのスーパーサルーンとしてみれば特筆するほどの発進加速ではない。しかし、いったん足掛かりを見つければ、もはやもたついたままではいない。
同じ日に同じコンディションで性能テストを実施したロータス・エキシージは、重量が半分ほどで、97km/hまでとゼロヨンでは速かった。だが、161km/hとゼロセンはクアトロポルテが優に凌いだ。