【英仏のプライド戦】ルノー16 オースチン・マキシ 5ドア・ハッチバックを比較 前編
公開 : 2021.08.21 07:05
カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した16
ところがADO17に搭載されたEシリーズの6気筒では、ラジエターをフロントに搭載。苦労して短くした横幅は無駄になっている。高さの嵩む、鋳鉄製の1500 Eシリーズの圧縮比は9:1。最高出力は73psで仕上がった。
量産にこぎつけたマキシは、1968年5月にポルトガルから発売。当初は5速MTによるクルージング性能やビッグミニといえる軽快な操縦性、巧妙な車内パッケージングが称賛を集めた。フロントシートを倒せば、198cmの大人が横になることも可能だった。
ハイドロラスティックと呼ばれたサスペンションは、これまでにない優れた乗り心地を実現していた。ところがエンジンは非力でにぎやか。引っかかりのあるシフトフィールに、多くの不満の声が出た。
マキシの実力は低くなかった。1970年には改良を受けた1500に加えて、1750cc仕様も登場。さらにストロークを伸ばし、12馬力を上乗せした。マニフォールドの改良で、トルクも太くなった。
ケーブル・リンクだったMTは、歪みの少ないロッドに変更。1968年当初はデラックスのモノグレードだったが、HLとHLSが追加。ツインキャブ仕様とATも選べるようになっている。
他方、ドーバー海峡の反対側では、サルーンとステーションワゴンを混ぜ合わせたようなルノー16(セーズ)が1965年から作られていた。15年のモデルライフで180万台以上が生産された、名モデルだ。
美男子とはいえないものの、ガストン・ジュシェが描き出した2ボックス、6ウインドウのボディは紛れもなく機能的。個性的な優雅ささえ漂わせている。1965年のカー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。
先進的な技術に安価な価格、快適性と洗練性
雨だれが一体化されたボディは、少々背が高い。シビエ社製のヘッドライトは、レバーで角度調整が可能だった。タイムレスなデザインで、長い生産期間へも充分に耐えた。ワンピースのサイドプレスなど、多くの世界的特許も取得している。
1951年から作られていたフリゲートの後任車として、大規模な費用が投じられた先進的なモデルだった。マキシの登場以前、折り畳み可能な後席を持つ5シーターの5ドア・ファミリーカーは、ルノー16以外になかったといえる。
16が目指したのは、フランス中産階級へ向けたライフスタイル・カー。短い余暇を楽しむためのクルマだ。ルノーは仕事にも遊びにも使えるという、隙間市場を発見した。
当時のフランスは、まだ道路網が完全ではなかった。安価で簡素でありながら、長旅にも耐えられる快適性と洗練性も兼ね備えていた。
ストロークの大きいトーションバーを採用し、乗り心地はシトロエンDSに迫るといわれたほど。ちなみにトーションバーの位置が左右で異なり、ホイールベースは左右で70mmも違っている。
ディスクブレーキも積極的に導入。高負荷時にリアタイヤ側のブレーキ圧を抜くアンチロック構造を採用するなど、新しい技術も搭載していた。当時としては珍しくシャシーのグリスアップが不要で、メンテナンスの手間も少なかった。
新設計の4気筒エンジンも特徴の1つ。鍛造工程の精度を高めるため、アルミに圧力を加える製法を採用。電動ファンと、密閉型の冷却システムも導入している。
この続きは後編にて。