【ゲイドンの救世主】ジャガーXK8、XKRとXKR-R 3台を比較 誕生25周年のX100系 後編
公開 : 2021.09.05 17:45
禁断の果実を味わうような興奮はない
リア・サスペンションは大々的な手術を受け、Sタイプのものをベースに改良して組み付けられた。車高は30mm落とされ、ホイールはBBS社製の巨大な20インチを装着。タイヤはピレリPゼロで、アグレッシブな容姿を完成させている。
さらに特筆すべきは、トレメク社製のT56型6速MT。当時のコルベットやバイパー、ヴァンキッシュなどに採用されていた、かなり骨太なトランスミッションだ。
実際に運転してみると、2速に入れていても、禁断の果実を味わうような興奮はない。フェンエンドのバンクコーナーでアクセルペダルを踏み倒しても、打ち出されるパワーは現実的な範囲。MTのXKR-Rプロトタイプは、第一印象ほどのモンスターではなかった。
XKRコンバーチブルより乗り心地は硬いが、厳しいほどではない。コーナーを曲がると少しボディロールを許すほど、サスペンションには快適さが残されている。
ステアリングのレシオは、ロックトゥロックが2.2回転とクイックで、XKRよりかなりシャープ。パワーデリバリーは、想像通りの激しさがある。しかし、SVOが手掛けたX100でも気難しさは殆どない。
XKR-Rプロトタイプは、XK8の一員のまま。より生々しいが、重厚感のあるドライビング体験は共通している。車重が生む慣性が、活発な加速感に逆らうように存在している。
ドライバーとの一体感は強められている。確かにXKR-Rで輝く部分だが、プロトタイプを体験しなければ標準のXKRでも大きな不満は感じないだろう。ジャガーが、そっと蓋を閉じた理由も理解できる。
快適性を正しく捉えたジャガーXK8
初期のXK8でも、後期のXKRコンバーチブルでも、X100系を運転すると懐かしい気持ちでいっぱいになる。XKR-Rプロトタイプでも同様だった。
1996年のジュネーブ・モーターショーでXK8が発表されると、筆者はすっかり一目惚れしてしまった。最近は道路を走る姿を目にする機会が減ってしまったが、今でも大好きな気持ちは変わらない。
3台で、強く印象に残ったのが2006年のXKRコンバーチブル。予想以上に。スーパーチャージャーの唸りは、何年ものモデルライフを生き抜くための遠吠えのように聞こえた。でも、初期のXK8が漂わせる容姿の上品さは、失われているようにも思えた。
XKRのメッシュグリルとライトの輝きが、上手に経年を隠している。しかし、オリジナルのXK8クーペの方が、見た目は良い。
初期のXK8が履く控えめなサイズのアルミホイールと肉厚なタイヤに、ウォールナットとレザーで包まれたインテリアは、一昔前の高級感を体現している。扁平タイヤやカーボンファイバーのパネルより、伝統的な英国車には相応しい。
1996年に工場を出たモデルを運転するほど、自宅で過ごすようにリラックスした気分になれる。トレメク社製の6速MTや、スーパーチャージド4.2Lも悪くない。しかし、快適性を最も正しく捉えた素晴らしいジャガーは、初期のXK8だと感じた。