アウディA8L 4.0TSFIクワトロ

公開 : 2014.04.04 22:50  更新 : 2021.10.11 09:06

■どんなクルマ?

アウディA8は、ドイツのプレミアム・ブランドから市場に投じられているプレミアム・サルーンの中でも、特別な存在感を持つモデルだ。その大きな理由となっているのは、アルミニウムという軽量素材による、ASF=Audiスペースフレームや、伝統のフルタイム4WDシステム、クワトロに象徴される独自の最新技術。「Vorspirung durch Thehnik=技術による先進」という言葉を企業哲学に掲げるアウディにとって、2010年にデビューした、現行型のA8シリーズは、まさにその象徴ともいえるモデルであることは言うまでもない。

その現行A8シリーズに、デビュー以来初となるビッグ・マイナーチェンジが実施され、新型へと生まれ変わった。日本仕様のラインナップは、2ℓ直列4気筒TFSIエンジン+エレクトリック・モーターの「A8ハイブリッド」、3ℓのV型6気筒TSFIを搭載する「A8 3.0TSFIクワトロ」。4ℓのV型8気筒TSFI仕様の「A8 4.0TFSIクワトロ」と、そのロングホイールベース仕様となる「A8L 4.0TSFIクワトロ」。さらには6.3ℓのW型12気筒エンジンを、ロングボディーに組み合わせた「A8L W12クワトロ」の5モデル。プライスレンジはハイブリッドの998万円からW12 クワトロの2,145万円まで。ほかに、よりスポーティなキャラクターのSモデル、すなわち「S8」の選択も可能だ。

今回のマイナーチェンジでは、エンジンの高性能&低燃費化などの性能向上とともに、安全装備をさらに充実させたことも大きな話題だ。新採用となる(3.0TSFIクワトロにはオプション)マトリクスLEDヘッドライトは、車載カメラからの情報をもとに、ハイビーム走行時には対向車などを感知すると、そのエリアの照射を停止するという、先進的な機能を備えるもの。ストップ&ゴー機能付きのアダプティブ・クルーズ・コントロールやアクティブ・レーンアシストなど、ドライバー・アシスタンス・システムの充実も見逃せない。

■どんな感じ?

今回メインに試乗したのは、A8L 4.0TSFIクワトロ。310psの3.0TSFI クワトロと比較すると、やはり435psというパワースペックはロング・ボディとの組み合わせであっても、相当に魅力的なものに感じる。アクセル・ペダルを踏み込んだ瞬間から始まるダイナミックな加速フィールや、これこそがまさにドイツの最高級サルーンといった印象に終始する、フットワークの絶妙な味つけ。そして何よりクワトロという駆動方式が、圧倒的なスタビリティを生み出していることに感動させられる。

ドライバー・アシスタンス・システムも、正確に、そしてナチュラルに機能している。残念ながらマトリクスLEDヘッドライトの機能を確認することはできなかったが、こちらもデモンストレーションを見るかぎりは、実用性の高さというものは十分に期待できそうだ。

センターコンソールによって、スペースを左右に二分割した、4シーターのキャビンは、実に快適な移動空間だ。そもそもの遮音性が高いことに加え、アクティブ・ノイズ・キャンセラーによって、不快なノイズを打ち消していることで、走行中の室内には驚くほどに静粛な世界が演出されているのだ。シートや内装の質感も素晴らしい。デザインとしては、最新のメルセデス・ベンツSクラスなどと比較すると、ややクラシカルとも感じるが、上質なものに全身を包み込まれるという感覚では、ライバルに見劣りすることはないだろう。

V6モデルの3.0TSFIクワトロの走りは、この4.0TSFIクワトロと比較すると、さらに軽快な印象が強い。サスペンションからは硬さがなくなり、ノーズが軽くなった分、ステアリングの動きに対する反応も、クイックなものになる。エンジン・パワーの差は、前でも触れたように絶対的ではあるものの、プライスや燃費性能までをも含めたトータル・バランスで考えた時には、その魅力はさらに大きくなる。新型A8のベストバイは、やはりこのV6モデルということになるだろうか。

■「買い」か?

メルセデス・ベンツSクラスにBMW7シリーズ。アウディA8は、これらの強力なライバルと直接対抗しなければならないモデルだ。特にフル・モデルチェンジされたばかりのSクラスの存在は大きく、デザインによって、積極的にダイナミックでエモーショナルなイメージを生み出そうというSクラスと比較すると、A8のエクステリアは端正な印象に終始する。もちろんそれが、必要以上の自己主張を好まないというカスタマーからは、逆に高く評価されるものであることも確かなのだが。

エンジンのパワーアップなど、マイナーチェンジによってA8シリーズの走りは、さらに魅力的なものになった。装備の充実もすでに触れているとおりだが、アウディのフラッグシップモデルでありながら、Wi-Fiによるインターネット接続を可能とするアウディ・コネクトの搭載が実現していないのかには、個人的な疑問が残った。A8には現在のアウディが用意するすべての最新メカニズム、そして装備が採用されるべきではないかというのは、おそらくは誰もが抱く率直な感想ではないか。

マイナーチェンジによって、A8シリーズは確実にその魅力を高めたことは間違いない。アウディ独自の先進技術が演出する魅力的な走りは、このクラスの中でも特筆に値するものであることもまた確かだ。けして大きな数字ではないのだろうが、アウディA8シリーズは、日本でも確実にその独特な存在感に対する支持者を増やしていくことになりそうだ。

(text:山崎元裕 photo:花村英典)

アウディA8L 4.0TSFIクワトロ

価格 1,409万円
乾燥重量 2130kg
エンジン V型8気筒3992ccツインターボ
最高出力 435ps/5100-6000rpm
最大トルク 61.2kg-m/1500-5000rpm
ギアボックス 8速オートマティック

記事に関わった人々

  • 山崎元裕

    Motohiro Yamazaki

    1963年生まれ。青山学院大学卒。自動車雑誌編集部を経て、モータージャーナリストとして独立。「スーパーカー大王」の異名を持つ。フツーのモータージャーナリストとして試乗記事を多く自動車雑誌、自動車ウェブ媒体に寄稿する。特にスーパーカーに関する記事は得意。

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