【意外な敵?】ダイハツ・タント苦戦の背景 カギを握るムーヴの好調
公開 : 2021.08.22 05:45 更新 : 2021.10.13 12:01
「標準」ではない ムーヴ好調の立役者?
いったんタントから離れ、なぜムーヴが売れているかを考えてみよう。
そのヒントとなるのは、ムーヴの販売内訳だ。
実は、ムーヴの中で売れているのは標準タイプのムーヴではない。
ムーヴ標準車とはボディそのものが違う(けれど冒頭のヤリスのように車名に「ムーヴ」とつくのでムーヴに合算で販売台数にカウントされている)「ムーヴ・キャンバス」が主力となっているのである。
2021年上半期のムーヴ(全体)の販売台数は5万7761台だが、そのうち3万5799台と6割以上が「キャンバス」なのだから勢いがある。
ちなみに同時期のワゴンRの販売台数は3万236台、Nワゴンは2万7695台。その上をいくのは日産「デイズ」で3万1558台だが、いずれもムーヴ・キャンバスの台数よりは少ない。
ムーヴ・キャンバスの上をいくハイトワゴンは、SUVテイストの「ハスラー」のみである。
ムーヴ・キャンバスのデビューは2019年9月。丸みを帯びた親しみのあるデザインが特徴的で、そのデザインも売れている理由の1つだろう。
しかし、それだけではない。ムーヴ・キャンバス以外のハイトワゴンとは一線を画する特徴を持っているのだ。
それはドア。後席に、スライドドアを組み合わせているのだ。
この記事を書いている2021年8月20日時点では、ライバルにあたるNワゴンやワゴンRには、スライドドア車は存在しない。
そこに「選ばれる理由」があると考えられるのは、標準ムーヴとキャンバスの販売台数比率からも明らかだろう。
ムーヴ売れるとタントが売れない?
では、ムーヴ・キャンバスが売れると、なぜタントが売れなくなるのか?
ある販売店のスタッフに尋ねてみたところ、「タントなどスーパーハイトワゴンを選ぶ理由は、背の高さよりもスライドドアを魅力とするお客さまが多いと感じています」
「ムーヴ・キャンバスは電動スライドドアやオートエアコンを全車標準装備するなど内容を考えるとタントよりも割安感があり、スライドドアを希望するお客さまにキャンバスを提案すると『スライドドアが付いているならタントじゃなくてこっち(ムーヴ・キャンバス)でいい』とムーヴ・キャンバスを選ぶお客さまも多い」という。
その結果、ダイハツという枠のなかでムーヴ・キャンバスがタントの顧客を奪っているのだ。
いわゆるカニバリゼーションである。
もちろん、メーカーとしてはタントとムーヴ・キャンバスを足して「1+1=2」とまではいかなくても「1+1=1.5」くらいになればいいという考えもあるだろう。
そういう意味では、ダイハツがスライドドア車のツートップ体制を展開しているのも、カニバっているとはいえ失敗とはいえないかもしれない。
それに、ユーザー視点としては選択肢が多いのはいいことだ。
それにしても、日本のスライドドア人気には驚くばかりだ。そしてその人気が、軽自動車の勢力分布図に大きな影響を与えているのである。