【注目したい】バイデン政権のEVシフト 全EV化の欧州に追従しない道

公開 : 2021.08.24 06:15  更新 : 2021.12.13 21:21

手を取り合う大統領のメッセージ性

具体的には、充電ステーションの全国ネットワーク構築、消費者へのインセンティブ提供、国内製造業のサプライチェーン再編成と拡大のための資金調達、環境に優しい次世代テクノロジーの推進としている。

こうした投資により、米国は移動と製造の未来を勝ち取り、高給の雇用を創出し、製造業を拡大し、BEVの価格を下げ、世界中に輸出できるようになるとしている。

米国で最も売れるクルマ、ピックアップトラックの「フォードF150」にも、EV仕様が登場した。
米国で最も売れるクルマ、ピックアップトラックの「フォードF150」にも、EV仕様が登場した。    フォード

資金については米国商務省が少し前に、国内自動車産業発展という名目で30億ドルを用意していることにも触れている。

しかもこの発表は、自動車業界を敵に回したものではなかった。

その証拠に発表には、フォード、GM、ステランティスの旧ビッグ3と全米自動車労組(UAW)がホワイトハウスでバイデン大統領と並び、大統領の「Build Back Better Agenda」の支持を示す形となった。自動車メーカーが米国内で高給での雇用を実現するために投資し、産業全体を成長させる必要があるという考えを共有したからである。

テスラが入っていないのは、伝統的な自動車メーカーでないうえに、UAWに加入しておらず、むしろ敵視するような態度を取り続けているからだろう。政府が自動車の電動化を業界といっしょに進めていくというメッセージを出すには、旧ビッグ3やUAWとタッグを組んでいると表明するほうが、国民にとってはわかりやすい。ここでもメッセージの出し方に感心した。

もう1つ発表内容を見て感じたのは、中国への対抗意識だ。

追従が目的ではないEVシフト

中国はBEVとバッテリーで世界的なサプライチェーンをリードしているのに対し、米国のBEV販売シェアは中国の3分の1にすぎないことや、米国は中国を凌駕し気候危機に取り組むというメッセージを出すなど、何度も名指しで取り上げている。

ちなみに中国の戦略は、2035年にBEV、PHEV、FCEVが該当する新エネルギー車(NEV)を新車販売の50%とし、残りはHEVなどの低燃費車とするという内容で、目標とする年では米国が中国の先を行くことになる。

ひと口にEVシフトと言っても、取り巻く条件は「国や地域によって気候や人口や地勢などは違う」と筆者。
ひと口にEVシフトと言っても、取り巻く条件は「国や地域によって気候や人口や地勢などは違う」と筆者。    AUTOCAR

では日本のマスコミがひんぱんに取り上げる欧州については言及しているのかというと、まったくない。もちろん批判はしていないが、評価もしていない。

米国内にもこの発表は生ぬるいと批判する声はあるという。

しかしこの計画により、2030年には新車乗用車における温室効果ガスの排出量を昨年と比較して60%以上削減することが可能となり、2030年に経済全体の温室効果ガス排出量を2005年比で50~52%削減するという大統領の目標の達成を促進することができると言っており、温暖化対策に相応の効果はある。

筆者は米国の対応こそ真っ当だと考える。

国や地域によって気候や人口や地勢などは違う。だから日本を含め、それぞれの国や地域が今ある状況の中で最善を尽くす。それが誰もが幸せになれる環境対策ではないかと、米国の発表を見て感じた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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