【MGB GTで830kmを走る】スコットランド人気の観光ルート ノースコースト500 前編
公開 : 2021.09.11 07:45 更新 : 2021.09.13 07:39
クラシックカーにとっては大冒険
NC500を走ることは、クラシックカーにとっては大冒険に等しい。ガソリンスタンドは簡単に見つかるものの、ハイオクタンのガソリンを提供している場所はほんの一握り。
タイトなカーブが続く山道を抜けると、天気も急変。太陽が出ていたと思ったら、厚い雲に変わり雨が降り出す。突然、道幅が広い幹線道路へ出ることもある。
しかし、MGBはNC500から歓迎されている様子。スーパーマーケットの駐車場で休憩していたら、5人が互い違いにやって来ては、クルマを褒めていった。
「見ていて疑問だったんですよ。リアシートに座って運転してみては?」。ある紳士が冗談交じりに話して、トラックに乗り込んでいった。筆者の2m近い身長を見ながら。
NC500を東から回る場合でも、西から回る場合でも、最初に立ち寄るべきはカロデン・ミュアーの町。筆者はそこからブラック・アイル半島へ向かい、ドーノック・キャッスルを通るルートを選んだ。ここは夜が来る前に走り抜けたい。
1727年、ジャネット・ホーンという女性は魔女だという疑いをかけられ、ドーノック・キャッスルで火炙りにされた。魔女狩りの犠牲になった、最後の女性だ。認知症を患い、娘は手が変形していた。当時なら、疑いをかけられるには充分な理由だったのだろう。
暗い話題はおいておいて、ドーノック湾を望む場所に立つ、ダンロビン城を見送って北を目指す。荘厳な建築で、189室もあるという。
大きく変化した北スコットランド
徐々に交通量が少なくなり、太いトルクを発揮するMGBをオーバードライブに入れる。ニシン漁で有名な小さな村、ヘルムズデールへ進む。20世紀が始まる頃、途方もない量のニシンが東ヨーロッパやロシアへ輸出されたという。
魚をさばいたのは主に女性。腕のいい職人になると、1分間で50匹の魚を処理したという。10分で、1つの樽を一杯にできたらしい。漁師にとっても人気の港で、男女の出会いの場所でもあったようだ。
そこからさらに北へ進むと、風景は一変する。人の手が入った農地は荒野へ変わり、廃墟になった小屋が目につくようになる。中には、新鮮な卵を販売中、と記された手書きの看板が立つ場所も。
ジョン・オ・グローツ岬を過ぎ、英国本土の最北端、ダンネット・ヘッド岬を目指す途中、知人のミックと会った。長靴にオーバーオール、帽子という出で立ちだ。
「以前はダービーで、ロールス・ロイスの技術者をしていたんです。バルカン爆撃機の整備のために。でも、爆弾を投下する飛行機に関わることが嫌いでした。1970年に家族と引っ越し、それ以来この土地で農業の傍ら灯台守をしています」
彼はダンネット・ヘッドの付け根のブラフ湾で、ロブスターの養殖もしている。ベストな調理方法は何か尋ねると、蒸すことさ、とすぐに答えてくれた。
「ノースコースト500が整備された頃、アメリカに住む息子が見た機内誌に、ブラフ湾の空にかかるオーロラの写真が載っていたそうです。その日以来、この辺りは大きく変わりましたよ」
この続きは後編にて。