【トリノの上級志向】フィアット2300Sとフィアット・ディーノ V6はフェラーリ製 後編
公開 : 2021.09.12 17:45 更新 : 2022.08.08 07:24
イタリア市民のクルマ、フィアット。上級クーペの魅力を幅広く伝えるべく生み出された、ディーノと2300Sという希少モデルを英国編集部がご紹介します。
ミウラに通じるディティール
フィアット・ディーノ2000クーペのスタイリングは先輩の2300Sクーペよりシンプルだが、技術的にはより高水準。デザインは1960年代に大きく進歩しており、2台の見た目は印象的なほどに違う。どちらも優雅だが、6年間以上の差を感じる。
ブルーが美しいディーノ2000クーペは、イタリア車専門店の24ハンドレッドを営むマーク・デヴァニーが保有する1台。恐らく、欧州に残る中でもベストの状態だろう。
これまで1500時間のレストアが費やされ、サイドシルにフェンダー、ドアパネルなどが職人技で新調されている。駆動系もリビルドされた。もともとは、ワイパー修理の目的でガレージにやって来たらしい。
「イタリア・パドバで開かれたイベントで、新古品のフロントグリルを見つけたんです。世界で最後の1品かもしれません。フィアットの包装が付いたままでした」。と笑顔でデヴァニーが説明する。
ひし形のような6角形が連続するデザインは、当時のベルトーネが好んで用いたデザインテーマ。ランボルギーニ・ミウラに通じるディティールも、一部に観察できる。
ディーノの車内は、ミウラにも似たダッシュボードが存在感を放つ。ワイパーの支点はフロントガラスの両サイド。奥に据えられるフロントガラスを通じて、ボンネット越しに優れた視界が得られる。
ディーノの方が、2300Sより頭上空間もリアシートもゆとりがある。だが、2300Sのフロントガラスは起き気味で大きくカーブし、視認性に勝り開放的でもある。当時のイタリア車として、奥行きがあり幅の広い荷室も特長だ。
滑らかで活発に吹け上がる直6
シートは2台ともビニルレザー仕上げ。ディーノのシートの方が肉薄ながら、パワーウィンドウも付き、快適性では上だ。反面、フロアヒンジのペダルとステアリングホイールの位置が適正で、居心地自体は2300Sの方が優れると思う。
ディーノ2000のボンネットを開くと、フェラーリの見事なクワッドカムV6エンジンが姿を表す。トリプル・ウェーバー・キャブレターのチョークとして機能する、フラップが付いている。
ブレーキは先輩の2300Sでも4輪ディスクブレーキで、デュアルサーボが備わる。ディーノはベンチレーテッドディスクが奢られ、シングルサーボだ。
2300Sの直列6気筒エンジンはカチカチと音がうるさい。タペット・クリアランスが大きく取られているためだろう。800rpmのアイドリング時から、レブリミットに設定された6000rpmまで、とても滑らかで活発に吹け上がる。
BMWのエンジンに似た質感でもあるが、ここまで軽快には吹け上がらない。高回転域まで、サウンドも心地良い。恐らく7000rpmまで問題なく受け入れるだろう。
低回転域から中回転域にかけては、トルクが太く粘り強い。4速MTのギア比はワイドで、2速で96km/h、3速で128km/hほどまで加速できる。シフトレバーは長く中折れしているが、正確でキチリと変速が決まる。
クラッチはスムーズにつながり、ステアリングホイールの操舵感もダイレクト。低速域では重たいが、ロックトゥロック3.5回転とほどほどにハイレシオに設定されている。たくましいエンジンと相まって、一体感の強い走りを楽しめる。