【トリノの上級志向】フィアット2300Sとフィアット・ディーノ V6はフェラーリ製 後編

公開 : 2021.09.12 17:45  更新 : 2022.08.08 07:24

フェラーリ製の2.0L V6エンジン

2300Sは扱いやすく安定していて、挙動も掴みやすい。積極的に運転したくなる。

ピレリ・タイヤは細身だが、見た目以上にグリップする。リジッドアクスルというリア・サスペンションの構造を感じさせないほど、流暢で振動の少ない乗り心地も実現している。

フィアット・ディーノ2000クーペ(1967〜1969年/欧州仕様)
フィアット・ディーノ2000クーペ(1967〜1969年/欧州仕様)

一方、ディーノ2000のV6エンジンは、25psと2000rpmの余力がある。トランスミッションは1段多い5速MTだから、路上での充足感もより豊かだ。

ボディは低く広い。ドライビングポジションも低く、ディーノはよりイタリアンな雰囲気がある。

エンジンはすぐに始動し、カムシャフトとタイミングチェーンの機械的なノイズが大きい。現代のように人為的に強化されていなくても、吸気音が明確に響く。

65度のバンク角を持つフェラーリ製の2.0L V6エンジンを理由に、フィアット・ディーノ2000を購入する価値はある。新車時の価格は、3736ポンドだった。

とても滑らかで意欲的に、音響豊かに力強いパワーを生み出してくれる。特別な印象を抱かずにはいられない。2000rpm以上ではフレキシブルで扱いやすい。

0-97km/h加速は8.5秒と、今では目立った数字ではないものの、聴覚が速さを強調する。加速だけでなく、エンジンの回転数とギア比を操作すること自体に、ディーノの喜びがある。鋭く吹け上がり、刃物のように機敏に身をこなす。

ディーノのトランスミッションは、ケース自体は2300Sと共有だが、5速目とオイルポンプが追加してある。ワインディングを追い求めたくなるほど、自在にサウンドを奏でながら運転できる。

今も魅了する艷やかなスタイリング

フィアットは、ディーノ2000用にドディオン式のリア・サスペンションを開発する時間がなかった。しかしここでも、リジッドアクスルの欠点を実感することはない。パワーをしっかり受け止め、リーフスプリングがねじれるような兆候もない。

ステアリングホイールは、低速域では重い。直進状態からの切り始めで少し曖昧さがあり、切り込んでいくと軽さが出てくる。開けた高速コーナーを自信を持って運転できる。ドライバーへ信頼感を与える、手応えが伝わってくる。

シルバーのフィアット2300Sクーペとブルーのディーノ2000クーペ
シルバーのフィアット2300Sクーペとブルーのディーノ2000クーペ

低速コーナーでもボディロールは少なめ。アンダーステアは、アクセル操作で補正できる。コーナーの出口めがけて、姿勢を崩さずにライン調整できる懐の深さがある。

フィアットが手掛けた上級クーペの2台。どちらも親近感を持たせてくれるモデルだ。重力のようにわれわれを引き寄せ、艷やかなスタイリングで今も魅了してくれる。

実際に所有したら、実現できなかった夢のように、心残りが生まれるのかもしれない。財力と天秤にかけて、現実的な選択をしたという理由で。

だが、ここまで素晴らしい2300Sやディーノ2000を目の当たりにすれば、フィアットでもそんな心配は杞憂に過ぎない。プアマンズ・フェラーリとは呼ばないで欲しい。可能なら、どちらかを自宅へ連れて帰りたいという想いに駆られてしまった。

もし1台を選ぶなら、散々悩んで、フィアット2300Sクーペを取るだろう。その価値は、気持ちの均衡を取りやすいように思うから。

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