【ホンダの誤算?】なぜNSX、生産終了に追い込まれたのか 廃止早めたマーケティング

公開 : 2021.08.30 12:20  更新 : 2021.10.22 10:07

日本販売は計画通りも海外不振が要因?

「現行NSXの役割は終わった」というのが生産終了の公式な理由だが、その背景にはNSXの売れ行きも関係している。

2016年の発売時点では「北米のオハイオ工場の生産規模は1年間に1500台で、この内の100台を国内市場に供給する」としていた。

アキュラNSX
アキュラNSX    アキュラ

仮に計画どおりに販売されていたら、2016年から2021年における現行NSXの生産累計(5年間)は7500台になっていたはずだ。このうちの500台が国内で販売されたことになる。

ところが実際の生産累計は、2021年の時点で2558台にとどまる。日本国内の販売台数は464台だ。

ここで新たな疑問が生じる。

海外を含めた現行型の生産累計は2558台だから、販売計画の7500台と比べた時の達成率は34%と低い。

しかし日本は販売計画が500台で、実際の登録台数は464台だから、国内の達成率は93%と高い。

つまり現行NSXは、海外ではメーカーの予想に反して売れ行きが伸びず、日本では逆に堅調に売られたことになる。

この計画台数に対する海外と日本の達成率の格差は、どのような理由に基づくのか。この点も担当者に尋ねた。

「海外で売れ行きが低迷した背景には、北米市場の販売不振がある。NSXは北米ではアキュラブランドで販売されるが、このブランド力も影響を与えた。北米では、長い歴史を持つ世界の有力なスポーツカーブランドが豊富に売られ、アキュラは入り込みにくかった」

「1年間に計画どおりの1500台を製造する能力はあったのか?」と尋ねると「そこは問題なかった」という。

つまり北米ではほかの高性能スポーツカーに負けて売れ行きを低迷させ、日本では共感を得てほぼ計画どおりだったことになる。

この販売低迷も、NSXを廃止する重要な理由だ。

国内市場の過小評価 NSX廃止を早めた

さらに新たな疑問も沸いてくる。

前述の売れ方を見る限り、「1年間に1500台を生産して、日本ではこの内の100台を売る」という販売計画が誤っていたのではないか?

NSXの初代と現行モデル
NSXの初代と現行モデル

現行NSXの発売以降、国内販売店のNSXパフォーマンスディーラーでは、「NSXはいつでも買えるクルマではなく、納期も不明瞭」と言い続けてきたからだ。

NSXの購入には多額の予算が必要だから「納期が不明瞭」では購入しにくい。

そのためにNSXの情報は、メーカーのホームページには掲載されていたが、販売会社のホームページからは落とされていた。

販売店に尋ねると「NSXを掲載すると、お客さまに(いつでも買えるクルマのような)誤解を与えてしまう心配があるから」と返答された。

国内のNSXをこのように消極的に扱わず、国内計画台数をさらに増やしていたら、購入も容易になって売れ行きはもっと底上げされたのではないか。

そこで担当者に「NSXの生産台数が1年間に1500台で、日本の販売台数はその内の100台という割当ては、何を根拠に算出したのか」と尋ねると、次のように返答された。

「日本国内では、新車価格が2000万円を超える乗用車は、1年間に400~500台が販売されている。そこでNSXは、国内計画台数を100台とした」

ここにも誤算があった。初代NSXの生産累計は、海外も含めると1万8000台に達している。日本では当時のユーザーが、あらためて現行型の購入を希望する場合がある。

また先代NSXの生産終了から16年を経過するから、先代型に憧れた人達が今は立派な大人に成長して、現行型を購入することもある。

NSXは高価格車だが、日本にはNSXのファン、ホンダのファンも多い。

NSXはポルシェフェラーリ以上に特別な存在だ。

そして日本と、北米を始めとする海外では、NSXの受け止め方がまったく違う。

その結果、現行NSXの販売計画では、日本の販売比率は7%だったが、実際には18%に達した。

国内の計画台数を増やし、日本のユーザーが購入しやすくすべきだった。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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