【エンジンに残された希望】合成燃料 ベントレー、パイクスピークで1位獲得 走りに不足なし
公開 : 2021.08.30 18:45
パイクスピークで活躍したベントレー・コンチネンタルGT3には、再生可能な合成燃料が使用されていました。
再生燃料車カテゴリで1位
今年のパイクスピークでは、760psのベントレー・コンチネンタルGT3パイクスピークが存在感を際立たせていた。山頂付近の雪と氷により、ゴールは通常の標高4300mから3895mの地点に変更。そのため記録更新は叶わなかったが、再生可能燃料を使用したクルマとして見事1位に輝いた。
GT3のカスタマーレースを通じて、ベントレーは世界中のさまざまな燃料やオクタン価について多くの経験を積んできた。
「ダイノで連続してテストを行いましたが、特に問題はありませんでした」とモータースポーツ・エンジニアリング・テクニカル・マネージャーのデビッド・アージェントは語る。
使用された98オクタンの合成燃料はバイオマス由来だが、市販の燃料に混ぜられているエタノールのようなアルコール燃料とは異なる。食用に適さない植物を原料としたバイオマスを加工し、化石燃料のようにCO2を排出しない炭化水素系の合成ガソリンとなっている。
エンジンは、量産車に搭載されている4.0L V8ツインターボをベースにしたGT3ユニットを改良したもの。市販エンジンと同じ鋳造部品(ブロック、サンプ、シリンダーヘッド)を使用しているが、クランク、コンロッド、ピストンを強化している。
また、スロットルボディの上流にポートインジェクターを設置し、高地で十分なブースト圧を得るために大型のターボを搭載している。リアには2台目のラジエーターを設置し、熱交換器でオイルを冷却する。
アージェントは、「パイクスピーク用のクルマを作るなら、インタークーリングとラジエーターの両方の冷却を考慮しなければなりません」と話している。
数々の問題を乗り越えて
今回のパイクスピークでは、エンジンとインタークーラーの外面に水を噴射して、空気の温度を下げるシステムを特別に追加した。水を使わなかった初期の走行では、ターボによってエンジンに送り込まれる空気の温度が48度に達していたという。
「高度が高くなると、エンジンを通過するマスフローが少なくなり、通常よりもハードに運転することになります」とアージェントは言う。標高3800m付近で連続するタイトなコーナーは、その形状から「W」と呼ばれているが、これが温度の問題を引き起こした。
「Wは低速ですが、エンジンへの負荷が高いです。ヘアピンに侵入し、1番、2番、3番と抜いていき、強くブレーキをかけて、また同じことを何度も繰り返すのです。ラジエーターには空気が流れず、油温と水温が上昇します。エンジンに大きな負担がかかる危険なエリアです。Wの後には、冷却に有利な高速ストレッチがあります」
また、空気式のリカルド製シーケンシャル・トランスミッションに、必要な空気をエア・コンプレッサーで十分に供給できるかどうかも、標高の高さからくる課題であった。
そこでベントレーのチームは、ペイントボールマーカーに使われるキャニスターを模した小型のアキュムレーター・タンクを装着するというアイデアにたどり着く。走行前に圧縮空気を充填することで、トランスミッションは正常に機能した。
パイクスピークのマエストロであるリース・ミレンの手に委ねられたコンチネンタルGT3パイクスピークは、スタートを切ると猛烈な勢いで丘を駆け上がった。第3セクターに入ったときには、ライバルに12秒の差をつけていたが、思わぬ問題が発生した。
何年にも渡りGT3レースで何千kmもの距離を走ってきたトランスミッションの変速タイミングに異常が生じ、バックファイアが発生してカーボンファイバー製のインテークプレナムが割れ、終盤の数コーナーでブースト圧が低下したのだ。
その結果、タイムアタック1クラスで2位、総合で4位、再生可能燃料車の中では最速という素晴らしい成績を残したが、16秒のタイムロスがあった。
速さを証明したからこそ、チームにはやり残したことがある。今のところ正式な発表はなされていないが、来年、「ベントレー・ボーイズ」が復帰することは間違いないだろう。