【1年違いのラリーチャンプ】タルボ・サンビーム・ロータスとアウディ・クワトロ 後編

公開 : 2021.09.18 17:45  更新 : 2022.11.01 08:53

世界ラリー選手権でトップ争いを繰り広げた、タルボ・サンビームとアウディ・クワトロ。後輪駆動と四輪駆動の節目の2台を、英国編集部が比較しました。

四輪駆動による世界初の高性能モデル

執筆:Ben Barry(ベン・バリー)
撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
アウディUrクワトロのプロトタイプは、1977年11月にテストが行われた。フォルクスワーゲンの理事会員は、1978年にオーストリアのアルプス、トゥルラッハー・ヘーエ峠へ挑むクワトロを視察。すぐに開発プロジェクトへゴーサインが出た。

クワトロは当時のサルーン、アウディ80から派生したクーペをベースとしていたが、中身は別物。新設計の独立懸架式サスペンションを前後に備え、5気筒ターボエンジンを搭載。そして、キモの四輪駆動システムが組まれた。

ブラックとシルバーのタルボ・サンビーム・ロータスと、ダークブルーのアウディUrクワトロ
ブラックとシルバーのタルボ・サンビーム・ロータスと、ダークブルーのアウディUrクワトロ

デザイナーのマーティン・スミスは、クワトロと改名されたアウディ・クーペを目にすると、四輪駆動による世界初の高性能モデルとして手を加える。予算をかけずに選ばれた手段が、ブリスターフェンダーだった。

筋肉質に膨らんだホイールアーチで、全幅を41mm拡張。新デザインのバンパーも装着され、全長は55mm伸びている。

今回、サンビーム・ロータスと並んだUrクワトロは、英国アウディのヘリテイジ部門が保管する1981年式。スコットランドで売られたクルマだが、左ハンドルだ。右ハンドル車が登場したのは、1982年10月だった。

サンビームのインテリアは緊縮的な1970年代の英国を映すものだが、Urクワトロには1980年代の華やかさがある。ドアを開くと豪華でモダン。実用性も忘れていない。

当初の英国価格は1万4500ポンド。サンビーム・ロータスの倍だ。シートやドアパネルは、こちらもベロア張り。運転姿勢はサンビームより遥かに快適でスポーティ。座面は低く少し後ろに傾き、サイドサポートは高い。

即時的な身軽さと興奮が薄いクワトロ

ドライバーの前方では、先進的なメカニズムが搭載されている事実を隠さない。レザー巻きのステアリングホイールの中央には、ターボと誇らしげに刻印される。

シフトレバーの前方には、センターデフとリアデフのロック状態を示すインジケーターが付く。ハンドブレーキの下のノブを引っ張ると機能する。

アウディUrクワトロ(1980〜1991年/英国仕様)
アウディUrクワトロ(1980〜1991年/英国仕様)

パワーウインドウにカセットラジオ、ヒートシーターも装備。全長はサンビームより約600mm長く、空間も広々だ。

発進すると、より重くサスペンションはしなやか。リラックして運転したいと思える。ステアリングのレシオもゆったりしていて、シフトレバーの動きも重い。

しかし、サンビームと比べると強みも歴然。パワーをより確実に路面へ伝えてくれる。滑りやすい路面でアクセルペダルを踏み込んでも、乱れることはない。乗り心地は落ち着きがあり、ブレーキも強力だ。

アクセルレスポンスは、ターボが介在し少し鈍い。5気筒らしい、ゴロゴロとしたノイズが響く。3000rpmまで回すとブースト圧が上昇し、加速力が一段高まる。高回転域での感触は粒が荒い。

お借りした初期のUrクワトロの排気量は2144ccで、最高出力200psを発揮する。サンビーム・ロータスの152psと比べると高出力だが、1290kgもありる車重で勢いは中和されている。

アウディには即時的な身軽さと、興奮が薄い。四輪駆動に加えて、エンジンはフロントアクスルより前方に載る。サンビーム・ロータスの俊敏なコーナリングの後では、アンダーステア傾向のニュートラルな挙動が印象付けられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ベン・バリー

    Ben Barry

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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