【詳細データテスト】アストン マーティン・ヴァンテージ 磨かれたシャシー 加速も向上 室内は要改良
公開 : 2021.09.11 20:25 更新 : 2021.09.14 05:54
走り ★★★★★★★★☆☆
3年前、ヴァンテージが自然吸気からターボへとエンジンを変更したとき、その結果もたらされた現実的なパフォーマンスの改善ぶりはわれわれを大いに感心させたものだった。もちろん今でも、アストンのエントリーモデルがロータスやポルシェの廉価モデルを、オードブルでも平らげるように易々と下すだろうという考えを変えるつもりはない。
そこはF1エディションでも同じだが、標準仕様のヴァンテージを大幅に上回るものではない。もっともそれは、ムアースCEOの信条に沿った結果だ。彼は今のところ、大幅なパワーアップを望んでいないのだから。
アストン マーティンは、トルクコンバーター式ギアボックスに、スムースさよりシフトスピードを求めた。その副作用として、ユニット内のクラッチがローンチコントロールプログラムに、最大のスタート加速を見込める1800rpm以上へ回転を上げることを許さない。
そのため、このヴァンテージの改良版はやや出足が遅れ、幅広いタイヤを十分にホイールスピンさせることはないが、ほぼ完璧な発進を決めた際には、0−97km/hで3.6秒というみごとなタイムを叩き出した。160km/hを超えると、このクルマはスタンディングスタートのタイムでベースとなった標準モデルを上回る。
そのパフォーマンスをもっと詳細に分析し、サイズアップしたリアタイヤとやや妥協気味の発進性能の影響を考えの外に置けば、エンジンの性能アップがどこに効力を発揮したかが見えてくる。32km/h刻みの追い越し加速のうち、4速以上を使う97〜193km/hの範囲の多くで、標準モデルを0.1〜0.2秒凌いだのだ。
F1エディションの空力パーツは、190km/hを超えると加速をわずかに損ねるようだが、それをコクピットで体感することはできないだろう。ダウンフォースが増加しようとしまいと、このクルマは常に持てる力のすべてを発揮するように感じられる。おそらく、速いアストン マーティンは総じてそういうものだろうが。
このV8ユニットはオペラの名手のような美声を聞かせてはくれないが、感情むき出しといった感じの好ましいサウンドを発する。そして、デジタルギミックで増幅されたAMGのエンジン音のような不自然さがないのが、より一層魅力的に感じられる。
トランスアクスルのATギアボックスは、街乗りではときどき低いギアで変速がややぎこちないところをみせ、またサーキットを思い切り攻めるのに向いているものでもない。速めのクルージングのほうが適していると感じられる。
シフトクオリティを磨こうというアストンの試みは、部分的に成功したといったところだ。シフトアップはクイックですっきりしているが、シフトダウンはスローで粘っこい。長いプロペラシャフトを介したトランスミッションへのインプットをコントロールするのが、一筋縄ではいかないことを十分に示している。