【1930年代の最速マシン】アラード・テールワガーII フラットヘッドV8搭載 後編

公開 : 2021.09.26 17:45  更新 : 2021.10.14 16:03

トライアルレースで友情を再確認

VSCCヘレフォード・トライアルでは、パワーを活かし急斜面を勢いよく登った。軽快なオースチンに有利な、タイトセクションは少ししかない。「マーシャルの人たちも、V8エンジン独特のビートが好きなようです」

「とても速く、濡れたセクションではクルマの後ろに12mくらい水柱が伸びます。サウンドも最高ですよ。すぐに姿勢が乱れるので、操縦は気が抜けません」

アラード・テールワガーII(1938年/英国仕様)
アラード・テールワガーII(1938年/英国仕様)

経験を積むほどイベントでの成績も伸び、ローズは勝利を重ねるようになる。そして遂に、共同オーナーのソワービーを助手席に乗せ、コッツウォルズ・トライアルへの出場を果たした。

「そのレースは、お互いの友情を再確認させるものでした。走る度にアラードは泥だらけになり、掃除に数日はかかります。でも、モータースポーツの中でもトライアルレースが1番好きですね」

「きっとシドニーも天から見下ろして、笑っているんじゃないかと思っています」。ローズが笑顔を見せる。

アラード・テールワガーIIを筆者も運転させてもらった。4スポークのブルーメル社製ステアリングホイールの後ろに腰を下ろす。フラットなシートが備わる、とてもベーシックなコクピットだ。

ダッシュボードのメーターパネルには、大きなKNH社製のレブカウンター。助手席側には、不可欠といえる、身体を支えるためのハンドルが付いている。フロアはすり減っていて、有名なアラードの歴史を物語っている。

トランスミッションは3速。ステアリングのボスに、油性ペンでゲートの配置が記されていた。

80年分の歴史が刻まれたFGP 750

1速とリバースが左側。ブガッティのように長いハンドブレーキレバーは、ボディの外側から伸びている。

フラットヘッドのV8エンジンには、個性的な唸り音が混ざる。サイドバルブ・ユニットは、かなり調子が良いようだ。ストロークは長いものの、ゲートは明確。慣れてくると、圧巻の加速を引き出せる。

共同オーナーのデス・ソワービー(右)と、ジョン・ローズ(左)
共同オーナーのデス・ソワービー(右)と、ジョン・ローズ(左)

試乗した日のシャシー・セットアップは少し緩いようだった。独立懸架のフロントタイヤとリア寄りの重心配分で、ワンダリング傾向が強い。集中した操縦が欠かせない。

パワーを掛けた状態では、ハイギアードなステアリングの修正舵が必要。うっかりすると意図しない方向へ走ってしまう。ステアリングを握る手の力を緩めて、独自のペースを見つけるのが良い。

ローズは、ゲーブル式のドラムブレーキを見事に調整している。それを補佐するように、サイドブレーキのケーブルもピンと張っている。充分な制動力が得られる。

少し慣れれば、速さを引き出せる。過去のオーナーが、無骨なアラードを好んだ理由も良く理解できた。

第二次大戦が開けると、ガソリン価格は高騰。オースチンやフォードをベースとした、小柄なスペシャルマシンが多く作られるようになる。大きなアラードの時代ではなくなった。結果、半数以上のアラードがスクラップとなった。

ソワービーとローズが共同で守り続けるFGP 750のアラードには、80年分の歴史が刻まれている。現役時代の勇姿が、見事に復活されている。テールワガーIIは、もうしばらくトライアル・レースで雄叫びを響かせてくれそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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