【1930年代の最速マシン】アラード・テールワガーII フラットヘッドV8搭載 後編
公開 : 2021.09.26 17:45 更新 : 2021.10.14 16:03
トライアルレースで友情を再確認
VSCCヘレフォード・トライアルでは、パワーを活かし急斜面を勢いよく登った。軽快なオースチンに有利な、タイトセクションは少ししかない。「マーシャルの人たちも、V8エンジン独特のビートが好きなようです」
「とても速く、濡れたセクションではクルマの後ろに12mくらい水柱が伸びます。サウンドも最高ですよ。すぐに姿勢が乱れるので、操縦は気が抜けません」
経験を積むほどイベントでの成績も伸び、ローズは勝利を重ねるようになる。そして遂に、共同オーナーのソワービーを助手席に乗せ、コッツウォルズ・トライアルへの出場を果たした。
「そのレースは、お互いの友情を再確認させるものでした。走る度にアラードは泥だらけになり、掃除に数日はかかります。でも、モータースポーツの中でもトライアルレースが1番好きですね」
「きっとシドニーも天から見下ろして、笑っているんじゃないかと思っています」。ローズが笑顔を見せる。
アラード・テールワガーIIを筆者も運転させてもらった。4スポークのブルーメル社製ステアリングホイールの後ろに腰を下ろす。フラットなシートが備わる、とてもベーシックなコクピットだ。
ダッシュボードのメーターパネルには、大きなKNH社製のレブカウンター。助手席側には、不可欠といえる、身体を支えるためのハンドルが付いている。フロアはすり減っていて、有名なアラードの歴史を物語っている。
トランスミッションは3速。ステアリングのボスに、油性ペンでゲートの配置が記されていた。
80年分の歴史が刻まれたFGP 750
1速とリバースが左側。ブガッティのように長いハンドブレーキレバーは、ボディの外側から伸びている。
フラットヘッドのV8エンジンには、個性的な唸り音が混ざる。サイドバルブ・ユニットは、かなり調子が良いようだ。ストロークは長いものの、ゲートは明確。慣れてくると、圧巻の加速を引き出せる。
試乗した日のシャシー・セットアップは少し緩いようだった。独立懸架のフロントタイヤとリア寄りの重心配分で、ワンダリング傾向が強い。集中した操縦が欠かせない。
パワーを掛けた状態では、ハイギアードなステアリングの修正舵が必要。うっかりすると意図しない方向へ走ってしまう。ステアリングを握る手の力を緩めて、独自のペースを見つけるのが良い。
ローズは、ゲーブル式のドラムブレーキを見事に調整している。それを補佐するように、サイドブレーキのケーブルもピンと張っている。充分な制動力が得られる。
少し慣れれば、速さを引き出せる。過去のオーナーが、無骨なアラードを好んだ理由も良く理解できた。
第二次大戦が開けると、ガソリン価格は高騰。オースチンやフォードをベースとした、小柄なスペシャルマシンが多く作られるようになる。大きなアラードの時代ではなくなった。結果、半数以上のアラードがスクラップとなった。
ソワービーとローズが共同で守り続けるFGP 750のアラードには、80年分の歴史が刻まれている。現役時代の勇姿が、見事に復活されている。テールワガーIIは、もうしばらくトライアル・レースで雄叫びを響かせてくれそうだ。