【007のQに選ばれたE】BMW Z3と750iL、Z8 1990年代のボンドカーを比較 後編
公開 : 2021.10.03 17:45 更新 : 2021.10.12 16:20
エンジンはE39型M5と同じV8
BMW Z8は既存のプラットフォームを流用していない。アルミニウム・ボディの内側には、専用のスペースフレームが組まれている。殆どが手作業で組み立てられたという。
ただし、エンジンルーム後方に搭載されるエンジンは既存品。E39型M5用の、S92と呼ばれる自然吸気のV型8気筒だ。排気量4941ccから、400psと50.9kg-mを発揮する。
シルバーのドアを開くと、ブラックに組み合わされた鮮やかなレッドに目がくらむ。シルバーで仕上げられたスイッチ類が、アクセントを生む。
Z8の着座位置は低い。ステアリングホイールは径が大きいがリムは細身。MTのシフトノブは、手を伸ばしたそこにある。
ダッシュボードの上面は大きくカーブを描き、ドアまで続いている。メーターパネルはダッシュボードの中央。ステアリングホイールの奥には、イグニッションとヘッドライトのスイッチくらいしかない。
BMWの、伝統的なドライバー・フォーカスとは異なるコクピットといえる。独創的とも呼べる。モダンなインフォテインメント・システムは、パネルの後ろに隠せる。
5.0LのV8エンジンは豊満なパワーを滑らかに生み出し、苦もなくスピードを高める。V8らしいビートがドライバーを包む。すべての操作系には、意図的な重み付けが与えられている。
ステアリングホイールはリニアで手応えも好感触。クラッチやブレーキペダルの重み付けも丁度いい。6速MTのシフトレバーもスムーズに動く。
リラックスしたグランドツアラー
シャシーはソフト寄りの設定ながら、Z3よりダンピングは強め。不規則な入力が連続して加わっても、姿勢制御が落ち着かなくなることはない。
穏やかなアンダーステア傾向があり、操縦性には軽快に感じさせるバランスがある。アクセルペダルでのライン調整も難しくない。
理由は不明だが、Z8にはLSDが備わらない。400psのFRスポーツカーなのに。新車当時、自動車メディアはアイデンティティがまとまっていない、と批判することもあった。
ハイパワーなスポーツカーというより、リラックスしたグランドツアラーだったのだろう。LSDだけでなく、Mのエンブレムが貼られることもなかった。能力の80%くらいまでを楽しむ、ロードスターだといえる。
アルプスの峠を攻め込んだり、サーキットの走行会でタイムを削るタイプではない。それを理解していれば、Z8へ強く好意を抱いてしまう。市場での注目も高いままだ。
BMWは1999年から2003年までの間に、Z8を5703台生産した。さらに、50年間分のスペアパーツも。
新車当時の英国価格は、8万6650ポンド。同時期のポルシェ911より3万ポンドほど高かった。現在での取引価格は、最低でも15万ポンド(2280万円)以上。20万ポンド(3040万円)くらい用意しないと、良い例は手に入らない。