【次世代EV技術】ナトリウムイオンバッテリーの可能性 安くて高性能な未来の電池
公開 : 2021.09.22 06:25
リチウムイオン電池に代わる技術として、ナトリウムイオン電池が注目を集め始めています。そのメリットとは。
原料が安価で大量に存在する
EV用のリチウムイオンバッテリーと同等のエネルギー密度を持ちながら、環境への配慮や長期的な利用、コストといった課題を解決できる可能性のある技術として、「ナトリウムイオン」が登場した。
この技術は、スウェーデンのチャルマース工科大学で研究されているもので、新しいタイプのグラフェンを用いて、世界で最も豊富で安価な金属イオンの一種であるナトリウムを貯蔵する。ナトリウムは海水の主成分であり、英国人がフィッシュ&チップスに振りかけるものでもある。高価ではなく、希少な原材料に頼る必要性も減らすことができる。
19世紀から使われていた鉛酸に代わる技術として、リチウムイオンバッテリーが登場するずっと前から、EV用バッテリーとしての可能性が模索されていた。鉛酸はエネルギー密度が低いためEVには使いづらく、1970年代後半にはメーカーから見放され、さらなる高エネルギーのバッテリー技術が求められるようになっていた。
その1つが、1980年代後半にBMWがテストしたナトリウム硫黄だ。ABB(Asea Brown Boveri)社が開発したこのバッテリーは、BMW 3シリーズで試用され、最終的に容量は22kWhに達した。その可能性に魅せられたBMWは、軽量なプラスチックボディのE1を開発し、200kgのバッテリーで320kmの航続距離を実現している。
1993年にはE2に塩化ナトリウム・ニッケルバッテリーを採用し、その後、3シリーズにニッケル・カドミウムバッテリーを採用。最後にミニEで35kWhのリチウムイオンバッテリーを採用した。
新たな始まりを告げる「ヤヌス」
ナトリウムイオンバッテリーの負極は、リチウムイオンバッテリーと同様に黒鉛でできている。どちらのバッテリーでも、イオンはグラファイトにインターカレートされ、グラフェンが積層された構造の中に挿入される。
ナトリウムイオンはリチウムイオンに比べて大きいため、黒鉛構造の中に効率よく貯めることができない。そのため、これまでのナトリウムイオンバッテリーの容量は、リチウムイオンバッテリーに10倍以上の開きがあった。
この問題を解決するため、科学者たちはグラフェン層の片側に分子のスペーサーを追加して、層と層の間にスペースを確保した。これにより、ナトリウムイオンがグラファイト構造に出入りしやすくなり、バッテリー容量の大幅な向上に成功した。
グラフェン層は通常、両面とも化学的に同じであるため、科学者たちはこの新仕様のグラフェンを、ローマ神話の新たな始まりを司る2つの顔を持つ神にちなんで「ヤヌス」と名付けた。
この研究はまだ初期段階にあり、産業用途での実現にはほど遠い。しかし、完全な可逆性(完全充電と完全放電というバッテリーの基本的な機能)を持つことが証明されており、また高い安定性を示しているため、性能を失うことなく何百回も充電と放電を繰り返すことができる。