【最新トルクベクタリング検証】後編 後輪駆動的な走り 高出力を効率よく活用 各社異なるチューン
公開 : 2021.09.25 21:05
アクティブトルクベクタリングを深掘りする比較テスト、いよいよ実走。スキッドパッドでは、その効果が一目瞭然。公道上では明確に体感できないながら、ハンドリングは確実に向上。そして、各車には明らかな個性がありました。
味付けはエンジニア次第
トルク配分をどうするかは、開発エンジニアのセッティングによる。その範囲内で、選択した走行モードだけでなく、そのときどきのスロットルポジションや舵角、旋回Gの大きさ、電子制御スタビリティプログラム(ESP)の判断などに応じて変化する。
新型ゴルフRを監修したエンジニアのヨナス・ティーレベインは「ドリフトモードは度を超えた使い方です」と語る。「というのも、普段ならクルマがスリップすることは求められないからです」。彼に言わせれば、スイートスポットは通常なら極限に至らないセッティングにあり、それは、ドライバーは感じ取れるが、傍目にはわからない程度にクルマが回るくらいだという。
「それが速く走らせることのできる方法で、わたしたちはそれを目指しています」とティーレベインは語る。それを超えて、リアのクラッチの片側が「ほぼ完全に切れている」のがドリフトモードというわけだ。
フォルクスワーゲンと、このシステムを共同開発しているのがマグナだ。メルセデス・ベンツGクラスやジャガーIペイスなどの生産を請け負っている、言わずと知れた一大エンジニアリング企業であり、A45のハードウェア開発にも関与している。
ゴルフRとA45のシステムは大きく見ればほぼ同等だが、AMGのほうがクラッチの枚数が多く、手組みエンジンでより大きなパワーとトルクを叩き出す。
AMGに長く在籍し、SLSの開発などにも携わったラース・ヘンツラーによれば、このシステムを組み込むまでには2年を要したという。目指したのは、直感的なレスポンスとスタビリティ。もちろん、パフォーマンス的なポテンシャルを前提としたうえでの話だ。
「求めたのは、ニュートラルなクルマです」とヘンツラーは語り、AMGは過剰に外輪側へ駆動力を分配しないという。「ドリフトモードでも、駆動トルクを完全に外輪へ送るのは意味がありません。そうすると、アグレッシブすぎて走らせにくいクルマになるからです」。
彼は、トルクベクタリングが抱える別の側面も口にしている。リア外輪寄りの駆動力配分とすることでオーバーステアを誘発するいっぽうで、コーナリング中は内輪側を加速させて、ESPに頼らず正確なヨーイングの抑制を行うこともできるというのだ。
ヘンツラーは、これが単なるギミックではなく、エンジン横置きハッチバックのハンドリングバランスを洗練させ、速さもドライバーの自信も高めるのに有効なツールだという信頼を、トルクベクタリングに寄せている。