ミニ・クーパーS
公開 : 2014.04.20 22:00 更新 : 2017.05.29 19:15
イントロダクション
大きく、賢く、成熟したミニは以前同様に我々を楽しませてくれるのであろうか。
われわれがミニ・クーパーSをテストし続けて以来、BMWはミニのラインナップを拡大し、よりわれわれの生活に適したモデルを発表し続けてきた。
新プラットフォームを搭載したクーパーSの刷新はBMWの更なる大きな野望を予感させ、ミニの全ラインナップの改良にとどまらず、初のBMW製の前輪駆動車の基盤となることをも意味する。
この超高価格で複雑な戦法は実現するまでに時間を要すが、ミニ・ファミリーの中でも一番主役に位置するハッチバックモデルを、顧客を充分に満足させる刷新へと導いた。
先代のクーパーSは、小さく魅力的で、あなたが望めば俊敏かつ粘り強い走りを見せてくれた反面、少しリラックスして運転したいときには少しばかりドライバーを疲れさせた。言い換えればそれはミニの持ち味そのものであり、サイズや快適性などにおける欠点は、将来の栄光へのひとつのハードルとしてBMWはそれらの欠点を丁寧に改善しつづけたのである。
排気量1275ccのクーパーSはノーマルのミニのモータースポーツバージョンとして、ジョン・クーパーによって開発された。BMWはそのモデルをモチーフとして現在のクーパーSを開発したのだ。
初代のBMWクーパーSはトライテック社製スーパーチャージャー過給の1.6ℓエンジンを使用する。2代目はPSA(プジョー株式会社)と共同開発したエンジンを使用した。このようにJCWを1番目とすると2番目に位置するクーパーSはミニのラインナップに加わったのである。
それでは最新のクーパーSは、先代に負けず劣らず我々を楽しませてくれるのであろうか。全方位テストの開始だ。
デザイン
3代目のミニに革新的なアプローチを期待しているのだとしたら、アレック・イシゴニスのモデルが40年にも渡ってミニをほとんど変化しなかったことを思い出してほしい。
それ故にフランク・ステファソンによる、初代ミニを大いに参考にしたデザインは必然的とも言えるわけだ(とびきり大きくはなったことは置いておいて)。非常に巧妙にデザインされてはいるが、実際にこれまでのクーパーと比較すると全長+98mm、全幅+44mm、全高+7mmとなった。
さらに、今回のミニの外観はほとんど大きく変化はしていない。大げさなノーズとテールランプの肥大化。その上、六角形のフロント・グリルにクラムシェル型のボンネットを基準に直立するフロント・ガラス等、おそらくさほど興味のない人にはわからないような小変更に留まっている。しかしながら、内面的には明確に新しく変更された部分が目白押しである。あたらしい超高張力UKLプラットフォームは28mmのホイールベース拡大はもとより強度アップにも大きく貢献している。
フロントにマクファーソン・ストラット、リアにマルチリンク・サスペンションを採用することで減量を可能にし、かつコンポーネントの強度も格段にアップした。それ故に、決して小さく無いボディをカートのようなハンドリングで操ることを可能にしたのである。
サスペンションの初めの収縮、続いてリバンプする際の衝撃吸収を電子的に制御するダイナミック・ダンパー・コントロールをオプション選択することも可能になった。
189psのクーパーSに機械式デフロック・システムは備わっておらず、その代わりに、コーナー外側のタイヤへのトルク遮断を行いながら、内輪の空転を制御するパフォーマンス・コントロールと呼ばれる凝った作りの電子式デフロックシステムが備えられいる。
昨今のダウンサイジングの流れにに反して、今回BMWは前モデルプラス400ccである2ℓのエンジンを採用した。時代への反発とかそういった類のものではなく、最新技術を盛り込むことを約束した上での、BMWらしい賢い2ℓエンジンを今までの1.6ℓの代わりにノーズに収めたのである。
そのツインターボ4気筒は、直噴エンジンで、吸気と排気側の両方に可変バルブ機構を備え、その結果として先代よりほんの少し上の189psを4700rpmから6000rpmで得ることを可能にした。何よりの大きな進化は、1250rpm時に221psをオーバーブースト機能を介して引き出せるようになった点である。
他のラインナップにある1.2ℓと1.5ℓの3気筒エンジンと同様に6速マニュアルが組み合わされる。この6速マニュアルは従来型と比べてストロークが短縮され、より気持ちの良いシフト操作も可能となった。
変速時の自動ブリッピング機能は、さらに快適性とスポーツ性能を高めたとBMWは言う。
インテリア
それではインテリアを見ていくことにしよう。新しいモデルの内装は、成熟し、同時に効果的であり非常に好印象である。ただ反面、面白みをそそるようなデザインは施されていない。しかしながら人間工学的に優れた今回のデザインは、先代の一癖あった内装を過去に葬り去ってしまったのである。
その上、スピードメーターをステアリング・ホイールの前方に移設した結果、見やすさは向上した。これらは特筆すべき改善である。欲を言うなら、ガソリン残量はアナログ表示の方を好むが、まぁ、これは取るに足らない不満である。
電動ウインドーのスイッチは、センター・パネルの下側から、ドア・パネルに移設された。エアコン・パネルの操作系も断然扱いやすくなり、全体として必要とされるそれぞれの操作の直感性が増した。
横方向にも余裕ができ、シートのサポート性とドライバーの足元の余裕が増し、少しだけペダル配置に違和感を感じるが、先代のどのミニに比べても快適性は改善されている。
そして先代までのミニ・オーナーが興味津々なのはリアのスペースであろう。残念ながら、そこまでの進化は遂げていない。ただし、すこしばかり拡大したホイールベースのお陰でそれなりには足元に余裕ができたことも一応書き記しておく。個人的には”ミニ”という名前だけに、必要にして充分な居住空間があれば大きな問題ではないと思うものの、総じて均整のとれたインテリアは外観と比較しても合格点だ。
ブルートゥース接続、エアコン、オンボードコンピューターとスポーツシートは最初から装備される。6.5インチのディスプレイをセンターコンソールオプションで追加することができ、そこにナビを表示させることも可能になった。ハーマン・カードン製のオーディオもオプションの装備品として用意されている。
8.8インチのBMW iDriveと同様の装備(インターフェイスはミニ版に改められている)もオプション選択が可能である。もちろんそれを選ばなくとも、容易にに接続可能なハンズフリー機能が最初から備わる。USBとAUX接続も用意され、携帯電話のインターネット接続を使用することも可能である。
この8.8インチナビゲーションシステムは、メディアパックのうちのほんの一部で、他には最短ルートの検索のみならず、一番燃料効率のよいルート、天気、渋滞回避や最寄りの駐車場までもを教えてくれ、直感的かつ洗練された操作を可能にしている。
パフォーマンス
事実として、ミニを完全なるホット・ハッチカーとして受け止めることは難しい。少なくとも、現代のミニの購入を検討している人々にとって、そのパフォーマンス・アピールはミニの些細な一面に過ぎないからである。しかしながら、「ミニはファッションで乗るものだろう」なんて言う皮肉屋に一言、ボンネットのストライプは伊達じゃあない。
0-97km/h加速は6.9秒、0-400m加速は15.3秒、この数値は同クラスを牽引するフォード・フィエスタSTと肩を並べるもの。0-97km/h加速では僅か0.1秒の差ではあるが、クーパーSは2速で、フィエスタSTは3速での結果である。参考までにわれわれのデータによると、ルノー・クリオRS 200ターボとアバルト595コンペティツィオーネはクーパーSのそれより0.5秒遅い結果となった。
排気量が拡大された2ℓエンジンではパワーの点においても一役買っている。低回転時のアクセル・レスポンスはより軽快に、中速域でのトルクもより強力になった。その証拠に48km/hから113km/hまでの加速では8秒ジャスト、ヴォクゾール・アストラVXRや、驚くべきことに6.2ℓのシボレー・カマロよりも速いことが挙げられる。
これらの進化は、あなた自身が路上で走らせた時に間違いなく、どこまでも走り回りたいと思わせてくれることであろう。”甘美”という言葉がぴったりなシフト・フィーリングについても書き加えておこう。
走りだけでなく、経済性についても少し書くことにする。エコモードで走行した際の21.3km/ℓという燃費は、あなたを笑顔にさせる充分な長所といえるであろう。
乗り心地とハンドリング
こちらでもミニの良さは光る。ロードテストをしていくに連れて、他のどのミニよりもエキセントリックである様子が明らかになっていった。
今回のクーパーSは可変ダンパーのお陰で、以前のモデルと比較して飽きの来ないドライビングを約束してくれるはずだ。
ショート・ホイールベースであるがゆえに、中型あるいは大型車では気にならないようなピッチングは避けられない。路面隆起が増せば増すほど、短い感覚で前輪から後輪へと揺れは続く。しかしながらコンフォート・モードにスイッチした際には、路面追従性と衝撃吸収能力は増し、長距離ドライブ時に乗り心地を気にする機会は軽減された。
我々が山野でテストした際も、コンフォート・モードに切り替えて走行した。お陰で結構な硬さのスポーツ・モードよりも大いに好印象だった。また軽量化により、ステアリングの正確性と直感性が増した。多少のトルクステアを無視するわけにはいかないが、それらを含めてコーナリング時には旺然たる印象を与えてくれた。もしあなたが、クルマの素性そのものを味わいたいのであれば、少し演出過剰に感じるかもしれないが、それはさておき、今回の味付けは楽しさを奪うものでは無いということは分かっていただきたい。
グリップとバランスは非常に優れており、トラクションにおいても先代のミニを大いに上回り、また他ライバルと比較しても全くもって遜色ない。
サーキットの走行ではブレーキが少し強力すぎるゆえ、実際に5周サーキットを走行した後には効きが低下した。車重が車重だけに(1265kg)われわれを驚かせた。
ブレーキのフェードはさておきテスト・トラックをドライ・コンディションで走った際には、横方向のグリップとコーナリングパワーはかなりのものだった。フォード・フィエスタほどの格別なものではなかったが、他ライバルを寄せ付けない仕上がりであった。
軌道修正のためでなく、このクルマの持つ車重ゆえに生じるヨーイングを封じ込むためにコーナーの頂点に鼻先を向け、僅かにブレーキングを引きずりながらアンダーステアを押さえ込んでコーナリングした。
BMW謹製のDTCのセッティングは低速コーナーのでのホイール・スピンを上手く対処してくれるが、これがブレーキのフェードを助長することも確かである。
ランニング・コスト
まずはじめに、クーパーSはいつだって他の小型ハッチバックと競合できる実力を兼ね備えているを覚えておいていただきたい。少し高価になったものの、ミニは先代からのミニらしさを保ち続けている。
ルノー・クリオRS200やプジョー208GTIより僅かに安価である。言い換えればアウディーA1 ブラック・エディションに比べて相当に安価である。フォード・フィエスタSTが依然として高価値であるには変わりないが、すこしスペックの高いST-2と比べると、クーパーSの方が価格は高いものの、値落ちはST-2の方が大きいだろう。
維持費の観点からすると、クーパーSの21.1km/ℓ(もっともわれわれは巡航速度で22.8km/ℓ、総合で14.8km/ℓを記録したが)という燃費であれば他にも選択肢が上がってくるものの、CO2の133g/kmという排出量からするとこれはクラストップである。しかし、本気で他ライバルと迷っている人たちにとっては、これらの数字はほんの僅かな差でしかないことも事実である。
装備に関しては比較的、説得性を増す。クーパーSのはエアコン、ブルートゥース、スポーツ・シートなど基本的なものは装備しているものの、有用な追加オプション・リストも豊富である。
購入者のほとんどは、この速いミニに16インチのホイールを履かせるかどうかに躊躇し、またその追加予算について確実に不平を言うだろう。
少し前まで、オーナーがそれぞれユニークに自分のクルマをパーソナライズすることはミニの独壇場だったが今や、他ライバルもその手法をすっかり自分のものにしたため、そうは行かない。
ミニの予想する残価は、より高価なアウデイA1と良い比較になる。さらにアルファ_ロメオ・ミト1.4TBマルチエアーと比較すると、ミトの方が明らかに早くその価格低下は早い。
結論
GOOD:力強いパフォーマンス 改善されたインテリア 磨きのかかった乗り心地
BAD:ブレーキのフェード いくつかの方向から見た際の不格好さ 標準装備の不足
ほとんど大体が、BMW謹製ミニの成功物語に終始する。
はち切れんばかりの可愛さとレトロモダンなルックスは13年の間にミニをかなりの高みに持ち上げた。そうなればなるほど、ミニは新しい「なにか別のもの」を要求され続けたのである。
「なにか別のもの」とは例えば、居住空間の拡大、速さ、細部におよぶ改善と成熟である。皮肉なことにその「ミニ」というネーミングからは程遠いサイズになったことも「改善」の結果である。
多くの人がその大きく成長したプロポーションに気づいているにもかかわらず、それでも3代目ミニはそのコンパクトさを全面にアピールする。サイズ故に時として、コントロールが難しい時もあるが、しかしながらそれを覆い隠すほどの楽しい瞬間を何度も与えてくれる。
同クラスのライバルをファン・トゥ・ドライブの観点で見るとフォード・フィエスタSTに軍配が上がるが、もし、常にアクセルを踏みたくなる衝動を抑えこむことができ、ミニのもつ実用性に不満がないのであれば間違いなくミニが最高の選択肢であると言えよう。
(グレッグ・ケーブル)
ミニ・クーパーS
価格 | £18,650(315万円) |
最高速度 | 235km/h |
0-100km/h加速 | 6.8秒 |
燃費 | 17.6km/ℓ |
CO2排出量 | 133g/km |
乾燥重量 | 1160kg |
エンジン | 直列4気筒1998ccターボ |
最高出力 | 189ps/4700rpm |
最大トルク | 28.4kg-m/1250rpm |
ギアボックス | 6速オートマティック |