【詳細データテスト】アルピナB8グランクーペ 文句なしの速さ 洗練の乗り味 やんちゃさは足りない
公開 : 2021.10.02 20:25
意匠と技術 ★★★★★★★★★☆
もともとB8は、M850i xドライブとしてこの世に生を受ける。しかし、アルピナの手に渡ると、センタートンネルをカーボン部材で補強したボディの下は、シャシーの基本骨格以外の大部分が作り替えられる。
まずはBMW製N63型V8だ。4395ccの排気量こそそのままだが、新たにより速く回るツインスクロールターボが、左右シリンダー間のVバンクに装着される。さらに、アップグレードしたピストンとスパークプラグも組み込まれる。
しかし、エンジンルーム内でもっとも大掛かりな改修を施されるのは、冷却システムだ。ベース車より50%拡大された新型インタークーラーをインストールし、エンジンのパワーとトルクだけでなく、高速巡航時の信頼性も引き上げる。結果として最高速は、M850iがリミッターで250km/hに絞っているのに対し、B8は323km/hを謳うに至っている。
ZF製の8速ATもモディファイされ、強化されたプラネタリーホイールと追加の冷却系、新設計のアルミ製オイルパンを装備。73.7kg-mから81.6kg-mへ増強されたトルクを受け止める。ギアボックスを制御するソフトウェアも書き換えられ、より素早い変速と、M850iでは行えない1アクションでの多段ダウンシフトを可能にした。
それに続くプロペラシャフトは、強度が高められている。xドライブ4WDシステムのトルク配分の性質もBMWのオリジナルから変更され、より優れたスタビリティとニュートラルさを追求している。
駆動力が行き着く先には、アルピナの特徴的なアイテムであるマルチスポークホイールが据え付けられている。鍛造品であるそれは、8シリーズ系モデルの純正ホイールでは最大となる21インチ。そのサイズは伊達ではなく、地面に向かって伸びたフロントスプリッターや、床下に追加配置された冷却装置によって、M850iより余計に必要となった路面とのクリアランスを稼ぐために選択されている。
乗り心地とハンドリングに関する部分を、アルピナが手付かずにしておかないのは当然のこと。電動アシストのステアリングは再調整。サスペンションのジオメトリーは変更され、ネガティブキャンバーがキツくなっただけでなく、少なくともリンクのひとつは刷新されている。
8シリーズといえば、いまだにエアスプリングよりスティールのコイルを重用している。アルピナは、アイバッハ製の専用スプリングと独自チューンのダンパーを組み合わせ、BMWにはないコンフォートプラスモードを用意して、より一層しなやかな乗り味を提供する。また、フロントストラットには新開発の油圧マウントを採用し、タイヤはピレリの騒音低減技術であるPNCSを採用したPゼロの専用開発品を履く。
加えてB8は、アルピナ専用のスポーツリアディファレンシャルを装備するが、基本的にこれはM850iの電子制御LSDのプログラムを見直したもの。同様に、アクティブスタビライザーや後輪操舵もプログラムを変更し、スタビリティとコントロール性の改善が図られている。