【1959年式は残存約250台】モーリス・ミニ・マイナー 評論家が買い取った広報車 後編

公開 : 2021.10.16 17:45

小さく軽く懐の深いミニだけの新鮮な喜び

小柄でも品格がある。小さな10インチ・ホイールが、ボディの四隅で確実に支えている。専有面積は小さくても、タイムレスなクルマとしての訴求力を強く備える。

乗り降りしやすく、全方向の視界は良好。ドアには小物入れが付いていて、ダッシュボードやシートの下の空間にも無駄がない。

BMC モーリス・ミニ・マイナー(1959年/英国仕様)
BMC モーリス・ミニ・マイナー(1959年/英国仕様)

ドアパネルやシート表面は、ICI社製のビニドと呼ばれるビニールクロス。ボルスターが吐いたニコチンのシミが、全体に残っている。ボルスター本人が被っていたという鹿撃ち帽も、親族を通じてパウリーが受け継いだ。

フロアにレイアウトされたスターターボタンを押し、エンジンを始動。1速に入れ加速する。トランスミッション内のトランスファーギアから、甲高い唸りが響く。シフトダウン時に引っ掛かりがある。

848ccのAシリーズ・ユニットは、とても粘り強い。パウリーによれば、多くの場面で2速発進できるとのこと。走行時は97km/hほどまで対応できる、3速に入れたままで大丈夫だという。4速は、高速道路用だ。

例え最高出力34psでも、ギアに関係なく意欲的に加速する振る舞いには、妙に引き込まれる。ボディの大きさには関係ない、軽く懐の深いミニには新鮮な喜びがある。

加速力は2.0Lエンジンのサルーンに引けを取らず、80km/hで走っていても恐怖感はない。110km/h以上の速度域でも、安定して運転できる。クーパー仕様など、スリリングな派生ミニが時間をおかず誕生した理由にもうなずける。

イシゴニスとBMCが生んだ傑作

自然で安心感のある、感心するほど正確で軽快なステアリングの操舵感と、前輪駆動の基準を築いたといえる即時的なレスポンス。どんな道を運転していても、オリジナル・ミニの素性の良さを感じ取れる。

ナーバスさを伺わせることなく清々しいほど機敏に回頭し、ラバースプリングでボディロールも限定的。乗り心地も悪くない。良く効くブレーキも含めて、余計な気遣いなしに小粋で陽気なクルマの運転を楽しめる。

BMC モーリス・ミニ・マイナー(1959年/英国仕様)
BMC モーリス・ミニ・マイナー(1959年/英国仕様)

子供の頃に遊園地のゴーカートを初めて運転した時のように、気持ちの根っこに響いてくる。イシゴニスが与えた動的な特性が、身体へ直接的に響く。これほど素晴らしい体験を与えてくれるクルマは、ほかにない。

60年前の庶民の足は、一般的に楽しい存在ではなかったはず。1959年当時のバスやバイク、戦前に作られた中古車などは、誰もが喜んで乗る対象ではなかっただろう。ミニの登場は、社会的に巨大な影響を与えるものだった。

吸収合併を繰り返したBMCだからこそ、こんな傑作を作ることができたのかもしれない。しかし、自らの身を守るのに充分な利益は得られなかったのが皮肉だ。

現オーナーのパウリーも、このミニを売れば少なくない利益を得られるはず。でも、そのつもりはないという。「多くの人が博物館に入れるべきでは、と話します。ですが将来の所有者も、わたしと同様にミニの歴史を理解する人であるべきだと思います」

981 GFCのナンバーを付けたモーリス・ミニ・マイナーのオーナーとして、彼以上の人物はなかなか現れなさそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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