フォルクスワーゲン・ゴルフR

公開 : 2014.04.22 23:45  更新 : 2017.05.29 18:58

イントロダクション

ホットハッチの「今」とは一体、どのような言葉で形容されうるのであろうか。それを紐解いていくことにしよう。

ゴルフGTIよりもパフォーマンスで上回る280psのセアトレオンクプラが、ゴルフGTIよりもほんの僅かに高い価格で発売されたことは記憶にあたらしい。

一方では、AMGが360psの完全に従来のメインストリームから逸脱したA45 AMGをデビューさせている。そんな混乱の最中にあるホットハッチというジャンルに、最新のゴルフRはどのようなアプローチをするのであろうか。

自動車市場において、常に長い歴史と確固たる地位を築いてきたフォルクスワーゲンは、2代続いたR32とは異なった手法で4輪駆動のゴルフRを、ゴルフ・ファミリーのトップモデルとして投入したのである。

ゴルフRには、R32に用いられたVR6譲りの6気筒エンジンの代わりに、1.8ℓのスーパチャージャー過給のエンジンを新たなアイデンティとして与えた。

長きに渡り、世界中から脚光を浴び続けたGTIのワンランク上のモデルとして「R」というレンジを新たに加えたのである。

そのゴルフR、完全なる別格な存在なのであろうか。それとも、あくまでゴルフらしく控えめに素晴らしいのであろうか。包括的テストにて、すぐに明らかになるだろう。

デザイン

以前より「R」の名を冠したゴルフは、他に用意されたグレードよりも特別な立場を担ってきた。”威厳とスポーツを予感させるデザインを上手にバランスさせながら、甚だしくなく且つ他モデルとの差別化を図る” というコンセプトを引き継いできた。

そのコンセプトは今回の新モデルにも余すことなく引き継がれており、外観は各種スポイラー、Rモデルのみに与えられたフロント・マスク、数の増えたマフラーが与えられている。あるいは、衝撃的だったR32と比較すると幾分控えめに感じられるかもしれないが、GTIと比較してみるとやはりRはひとつ上のモデルなのだなと感じることができる。なるほど、良い仕事である。

外観だけでなく、拡大と軽量化を同時に果たしたMQBプラットフォームや、ゴルフ5譲りのEA113型からEA888型の新しい4気筒エンジンに置き換えられたことも特筆すべきポイントである。EA888型は新設計のシリンダーと改良されたピストン、インジェクションバルブ、ターボチャージャーによって、5500-6200rpm時に前モデル+30psの300psの出力を可能にした。また同時に高効率化の影響で34g/kmのCO2排出削減にも一役買っている。

電子デバイスのアシストとハルデックス製の5世代目にあたる多板クラッチを採用した4輪駆動システムと6段マニュアル・ギアボックス(6段デュアル・クラッチ・オートマチックも選択可能)を介してパワー伝達が行われる。

ゴルフRの4輪駆動システムは、必要時にトルクの100%をハルデックス・カップリング(電子制御式油圧多板)を介して後輪に供給することが可能であり、フォルクスワーゲンいわく、レスポンスの向上と最適なトルク伝達に貢献し、特定のシチュエーション(言い換えると”高速コーナリング時”)ではより自然なハンドリングに寄与するとのことだ。

EDS(エレクトリック・ディファレンシャルロック・システム)はコーナリング時の内輪の空転を抑制し、トラクションを確保する装置であるが、そのEDSの機能を拡張したXDS+がゴルフR(GTIも同様)に備わる。ソフトウェアコードの書き換えにより、コーナリング時のアンダーステアを軽減と、ハンドリングの俊敏性向上に貢献している。

加えて、ESCボタンを3秒間長押しすることによって完全にESCの介入をオフにする機能も盛り込まれていることをここに喜ばしく記しておく。

GTI同様に、サスペンションはフロントがマクファーソン・ストラット、リヤがマルチリンクで、剛性向上のための微調整によって車高はGTIよりも5mm下げられている。

またパワーステアリングはロック・トゥ・ロック2.1回転に変更され、コーナリング時のハンドリングはよりアグレッシブな印象を与えてくれるようになった。

3ドアと5ドアが用意され、ワゴン・モデルも近い将来ラインナップに加えられるそうだ。

インテリア

ノーマル・グレードのゴルフ7の内装は、非常にシンプルでかつハイセンスに仕立てられている。Rもその路線からは逸脱しておらず、僅かに変更が加えられたスピードメーターや、フラットボトムになったステアリング、アルミ製のペダルや、ピアノブラックに塗り分けられたインパネが目で見てわかる変更点となっている。

アルカンタラとレザーで仕立てられたスポーツシートも新設計になり、滑りにくく、また長距離に渡る運転でも不快に感じさせることはない。ひとつだけ不満を述べるとすると、シート後方があまりに垂直に立ち上がっているために、快適なドライビングポジションをとるためにステアリング位置をドライバーよりに調整しなければならない点である。全てのスイッチ類の操作性は、明快で扱いやすかった。

相変わらず、マニュアル・モード時にシフトノブでギア操作をする際、前方にプラス、後方にマイナスとなっているので、これには我々は苛立ちの感情を禁じ得なかった。一方スポーツ・ステアリングに据え付けられているパドルで操作する分には何ら問題は見当たらなかった。またパドルシフトはDSGモデルに標準装備されてある。ご心配なく。

リアシートは標準的な大人の大きさであれば快適で(3ドアの後席へのアクセスは相変わらずではあるが)、足元の余裕も他ライバルと比較しても充分に競争力を持てるものだった。

電動キセノン・ヘッドライトに、前後パーキング・センサー、オートエアコン、ヒーター付き電動格納ミラー、ブルートゥース接続、クルーズ・コントロールが標準装備として挙げられ、満足できるポイントでもある。

オプション装備品としては、従来通り “ディスカバー” ナビゲーション・システムに加えて “ディスカバー・プロ” ナビゲーション・システムが用意されている。この “ディスカバー・プロ” ナビゲーション・システムは高価ではあるが、標準の5.8インチの画面よりも大きい8インチのカラー・タッチスクリーンとなるのでオプションとして考慮する価値はありそうだ。

喜ばしいことに、ナビゲーション・システムは画面に直接触れることで操作が可能になった。しかしながら、スマートフォンのようにスムーズに動作してくれるかというと、まだ改善の余地がありそうだ。なお、手を近づけた際にはディスプレイがそれを感知し、必要とするボタンを画面上に用意してくれ、また手を離すと画面上のボタンは消え去る仕組みとなっている。

“ディスカバー・プロ” ナビゲーション・システムにオーディオのアップデートは施されていないが、SDカードスロットは2つ備えられている。またDABラジオ(日本未対応)、8スピーカー、CDプレーヤー、MP3プレーヤー等の入力機能ははじめから用意されている。

携帯電話のブルートゥース接続は容易にでき、接続後の品質もとても良かった。

パフォーマンス

0-100km/h加速はマニュアルモデルで5.1秒、DSGの場合はそれよりも0.2秒短い4.9秒。最高速度はリミッターにより250km/hに制限される。

DSGモデルのゴルフRをウエットコンディションのMIRAサーキットでテストした際、4モーションの実力はすぐに姿を表し、ガソリン満タン状態で0-96km/h加速のタイムを計測し、4.8秒という結果をもたらした。

また瞬発力も申し分なく印象的だった。0-400m加速の13.4秒という結果は、最新のフォード・フォーカスRSと比較しても約1秒速いことになる。

48-113km/h加速のタイムはゴルフRが4.3秒、フォーカスRSが4.9秒であり、ここにもDSGの恩恵を垣間見ることが出来るだろう。

VR6やR32などの気筒数の多い諸先輩モデルと比較すると、やはり排気音が低くしわがれた印象を与えるのは唯一惜しいところである。

フロント・ウインドウの下側に位置するレゾネーターが耳に入ってくるエンジン音を意図的に大きくしている。この人口的な音は決して演出過剰ではなく我々のほとんどが好意的な印象を抱いた。(まぁ以下は非公式なことではありますが、ゴルフ6のオーナーのうち幾らかは、そのレゾネーターを取り外すことを常として、よりターボ特有のサウンドを楽しむ人もいますけれど。)

もしあなたが、ゴルフGTIをフォードのSTとほぼ同じと考えるのであれば、Rはフォードでいうと、より過激なRSと同等であると言えよう。よってゴルフRも、フォルクスワーゲンが許す限りに様々な部分が引き締められている。

それ故に、ダンパーの硬さやスロットル・レスポンスの向上、パワー・ステアリングのアシスト調整が出来るアダプティブ・シャシー・コントロールが選択可能であるにもかかわらず、乗り心地は最初から硬質である。もし一番硬めのセッティングにした場合は冷淡なほどの突き上げも容赦しない。ただし不思議なことに不快な類のものではない。まぁこの点においてはGTIの方が多少、角が丸い印象ではあるが。ステアリングは電子制御をしているにもかかわらず、不自然に感じる点はなく、あくまで直感的な操作を可能にしてくれる。

安定感があり、鋭く少しオールドファッションな所があるゆえ駆動方式は違うもののボクスホール・アストラVXRやセアト・レオン・クプラ、ルノーメガーヌ RS265などFFのライバル達と比べることもできよう。引き締まって、更に反応も良い。

基本的に、コーナリング時にはアンダーステアの傾向がある。しかしながら路上での懐は非常に深く、このクルマの限界はあなたが予想するよりもはるかに高い所にある。サーキットでも同様で感動的なレスポンスと共にコーナーをトレースしていく。

ハッチバックとしてのお手本をゴルフは高いレベルで示してくれることであろう。発進やコーナーのターンイン時には4輪駆動システムがパワーを的確に供給してくれる。特にウェット路面での4輪ドリフトではその実力が明らかになった。

他に現代のホットハッチの類で、ゴルフほどの鋭敏で活力のある車を見つけることはなかなか難しいであろう。

ランニング・コスト

フォルクスワーゲンはゴルフRをGTIに比べて高価でかつピリリとホットなモデルとしてレンジに加えた。

一番安い3ドア、6速マニュアルのゴルフRで、£30,000(517万円)となる。

この価格は、アウディS3のそれより少し安い―といっても、アウディならば同じ変速機で、さらに誇らしいエンブレムと建付けの素晴らしいインテリアを手にすることができるが―、また言い換えるとよりパワフルで、”ちゃんとした”駆動輪を持つBMW M135iよりもかなり安い価格帯に位置する。

といってもゴルフRは、理想を言うならもう少しプレミアム感があっても良いが、価格を超えた価値があるのは確かだ。

オプションを付けた我々がテスト車両として用いたモデルは£35,000(600万円)に届く程の価格になる。内訳は、左右独立式のオートエアコンに、クルーズ・コントロール、全方向パーキングセンサーに、スポーツ・シート、オート・キセノン・ヘッドライト等であり、装備リストはモデルのトップレンジとしては不足無い。

おそらく我々は、アダプティブ・ダンパーや19インチホイール、オプションのナビゲーション・システムも契約の際にリストに追加することになるだろう(その結果として発生する、追加請求に涙することは置いておいて)。

フォルクスワーゲンの公表するDSG搭載モデルでの燃費は17.4km/ℓ。我々の計測によると、巡航速度で14.3km/ℓ、全体のテストでは12.2km/ℓであった。

結論

もしかすると、GTIの卓越したエキサイティングな仕立てにゴルフRの存在が霞んで見えてしまった向きがあるかもしれない。ただゴルフRには、あなたがフォルクスワーゲンに求める洗練と、これみよがしではあるがホットハッチとしてのルックスが混在している。

最近のモデルで言うと、約300psの前輪駆動であるメガーヌ RS265が依然として、優れた選択肢として残り続ける。爆発的なパワーを持っているわけではないが、楽しさという点に置いては同レンジのトップとして認めるほかないだろう。

ただ、間違いなくゴルフRは、デイリーユースにおいて、あなたの恋人(あるいは愛妻)を快適に送り届けてくれ、また週末のサーキット走行会や山道ではあなた自身を存分に楽しませてくれるであろう。

緩急どちらのシチュエーションにおいても、そつなく、そしてハイレベルで満足させてくれるゴルフRは、これまでもそしてこれからもカルト的人気をほしいままにするに違いない。

(グレッグ・ケーブル)

フォルクスワーゲン・ゴルフR

価格 £29,990(520万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.9秒
燃費 14.5km/ℓ
CO2排出量 159g/km
乾燥重量 1495kg
エンジン 直列4気筒1984ccターボ
最高出力 300ps/5500rpm
最大トルク 38.7kg-m/1800rpm
ギアボックス 6速デュアル・クラッチ

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