日産キャシュカイ
公開 : 2014.04.29 22:00 更新 : 2017.05.29 19:27
イントロダクション
販売台数は自動車を評価する際に重要なポイントになり得る。そしてこのキャシュカイ、すでに見逃せない存在になりつつあるのである。また、世界中の関心を集めているかどうか、これもまた評価に重要な要素である。残念ながら新型ミニの方が周囲の関心を集めているように感じる。
初代のキャシュカイは、大当たりとも言うべき特大ヒット製品だった。昨年はイギリスでのベスト・セラー・カー第6位の称号をも手にしたくらいだ。ほかメーカーも同セグメントでキャシュカイに追従しようと試みたが、どれひとつとしてそれに及ぶものは今のところ、目にしていない。
表向きにはキャシュカイはテラノの後継モデルという位置づけではあるが、結果としてその人気ぶりから似ても似つかないものとなった。そしてさらに、第一人者ではないにせよ、すぐにファミリー・サイズのさほど高価格でないクロスオーバーの代表となった。
2007年にプリメーラやアルメーラと入れ替えに、当時はほとんど賭け事のような覚悟でキャシュカイを市場に投入した。それから7年後、大勝利(といっても過言ではない)を収めたのである。
掛け金はもちろん安くはない。しかしながら、フォルクスワーゲンがゴルフを作り替えるように、あるいはフォードがフォーカスに修正を加えるように、言い換えれば劇的に、または先代モデルの面影を残しながら細かく変化を加えるようにして、キャシュカイへの “ベット” に対する良き報酬の兆しが見え始めたのである。
新型のキャシュカイは、イギリス国内のサンダーランドで組み立てられるだけでなく、ロンドンでもデザインされている。また設計の多くはベッドフォードシャー州のクランフィールドで行われている。
ヴィシア(一番下のグレード)から始まる、アセンタ、アセンタ・プレミアム、そして最上級モデルのテクナまでの全グレードの内装レベルは良好である。
2種類のガソリン・エンジン(発売開始時は4気筒1.2ℓの115psのエンジン、後追いの形で4気筒1.6ℓの150psのエンジンを追加)、そして2種類ののディーゼル・エンジン(ルノーと共有するお馴染みの111psの1.5ℓと130psの1.6ℓ)の計4種類を用意する。
そして全てのエンジンに6速マニュアル・ギアボックスを標準として組み合わせ、1.6ℓディーゼル・エンジンにはCVTも選択可能となる。また、4WDモデルには6速マニュアル・トランスミッションが組み合わされる。
デザイン
日産が初代キャシュカイで開拓した “成功の法則” を余すことなく、今回のモデルにも適用させている。
最新モデルは、ルノーと日産が提携して開発した新しいプラットフォームであるCMF(コモン・モジュール・ファミリー)を元にして開発されている。その恩恵もあって、全長は+47mm、全高は低くなり全幅も大きくなった。したがって、外観はいままでのどこか捉えどころのないデザインから一変、シャープのラインと魅力的なディテールがよりダイナミックな印象を与えることに成功した。
このプラットフォームをルノーと日産の提携によって生まれた14のモデルに適用させ、2020年にはその台数をより拡大させる方針を日産は昨年の6月に発表済みである。
このCMFは、エンジン、キャビン、フロント・アンダー・ボディ、リア・アンダー・ボディから構成され、様々な種類のプラットフォームに共通したモジュールとして開発するため、各モデルレンジに展開することを可能とする。ルノー・エスパス、セニック、ラグナの後継車種を含む11モデルに採用される事になっており、一方日産ではローグ(アメリカのみ)とエクストレイルに採用される。
ロンドンでデザインされ、そのほとんどがイギリスとスペインで設計され、サンダーランドで組み立てられているところは先代モデルと同様。サスペンションはヨーロッパの道路で理想的な仕事をしてくれるというのが日産の公式見解である。
スチール・モノコックにはフロントにマクファーソン・ストラットが組み合わされる。リアは2WDモデルにはトーションビーム式サスペンション、4WDモデルにはマルチリンク式サスペンションが組み合わされ、今の主流ともいうべき、言い替えるならばよりコストの掛かるものとなっている。
ちなみに初代キャシュカイがデビューした際には、2WDの1.5ℓターボ・ディーゼルの6速MTモデルでのCO2排出量は99g/kmであった。
インテリア
キャシュカイの内装を見れば2007年にデビューしたモデルよりも大いにブラッシュ・アップされていることが一目見てわかるであろう。
先代の印象は、90年代のオフ・ロード・カーがそうであったように、快適性と実用性を再優先させたガッチリとした(ただし洗練には欠けた)ものだった。一方現行モデルは、平凡で退屈な一面は排除され、高級感が増した。明確に韓国やドイツのライバルからの影響を受けているとも言える。
しかしながらギラギラと光るプラスティックや些か浮いた印象のメタリック塗装等、表層的な高級感を狙ったディテールが随所に見られることも事実である。エルゴノミクスや操作の明快さをスポイルしてまで敢えて現代的な内装をこしらえようとした感が拭えない箇所が数点あった。
一方フロントシートの出来と視認性は大きく向上した。スイッチ類の操作性やメーターの視認性はキア・スポーテージやヒュンダイix35、フォルクスワーゲンの有効性には一歩及ばず、といったところ。ただもう一度記すが、先代のそれよりかは大きく向上している。
上記の様な改善は他の部分にも見られる。実際はほんの数cmずつの拡大に過ぎないはずではあるが、内装の広さは視覚的に寸法以上の拡大を感じることが出来る。また、控えめではあるがホイールベースの延長によって、後席のパッセンジャーの膝が前席の背もたれに当たることは少なくなるだろうし、シート・ポジションが低くなったおかげで頭上のクリアランスも大きな問題にはならないだろう。
ラゲッジ・スペースも20ℓ増しとなりリアシートを倒した状態で1585lの容量が確保された。そしてより注目すべきはパッケージの改善によって、テール・ゲートが150mm高く開くようになり、高低含めて16種類ものフロア・パネルが選択可能だ。またその中のひとつに完全にフラットになったパネルも含まれる。
ブルートゥースは接続、通話品質ともに問題なく操作も簡単であった。もしあなたが単なる通話以外にもスマートフォンを利用したい場合は日産コネクト・システムなる7インチ・ディスプレイを備えるアセンタ・プレミアム・グレードを選択する必要がある。
装備も全モデル一貫して優れており、エントリー・モデルにもヒーター付き電動ミラーや、坂道発進アシスト、ブルートゥース接続、クルーズ・コントロール、スピード・リミッター、トリップ・コンピューター、エアコンが標準装備である。
またCDをHDDに保存したり、USB音源を再生することも可能である。標準では4スピーカーとなっているが、アセンタ・グレードでは6スピーカーとなる。ブルートゥース・オーディオ・ストリーミングやFMの電波受信は良好であった。
衛星ナビゲーション・システムは日産コネクト・システムなしでは使用できず、もし必要であればコネクト・パッケージの選択は必須である。
パフォーマンス
キャシュカイにあたえられるエンジンは、エントリー・グレードの1.2ℓガソリン・エンジン、そして1.5ℓディーゼル・エンジン、そして最上級グレード1.6ℓガソリン・エンジンである。
あるいは1.2ℓの小ぶりなエンジンが大柄なボディを気前よく動かすことが出来るのか不安に思われる向きがあるかもしれないが、小さいエンジンとは逆説的にいうと過給器をつけることによって充分な出力を可能にすることも出来るのである。
加えて、新しい1.2ℓのターボチャージド・エンジンは115psを発揮し、以前の1.6ℓのNAエンジンよりも明確に大きな数字となる。また0-100km/h加速時のタイムは11.3秒と決して速いわけでは無いが、停止時からの加速の立ち上がりは非常にスムーズであった。もっともこれは高速道路を走行する際にも光り輝く。エンジン音は静かで、19.4kg-mのトルクは追い越しの際にシフト・チェンジを必要とすることもなく終始良い仕事をしてくれる。
一方1.5ℓのターボ・ディーゼル・エンジンに目を向けてみると、こちらは凍えるような寒さのなかでのコールド・スタート時に気になる振動と、あまりマナーの良いとはいえないエンジン音を発生する。しかしながら暖気後は非常にマナー良く動き、力強さも申し分ない。
81km/h走行時の、室内に入ってくるノイズを数値化すると62dBとなり、この結果は去年計測したラグジュアリー・クラスのメルセデス・ベンツSクラスや、BMW X5と匹敵する。言い替えればベントレー・フライングスーパーの方が騒がしいという事になるので驚くばかりである。また、風切り音やロード・ノイズもとても上手に処理しているのは言うまでもない。
加速は穏やかで多くの人が満足できるはずだ。1750rpm時にパワーを引き出す特性ゆえ、低回転時ではアクセル・レスポンスに不満があるが、それを除いてエンジンは柔軟性が高い。
4500rpmまではスムーズに回転を上げることが可能で、粗々しさや苦し紛れなところは一切見当たらない。したがって追い越しに苦労することもない。またわれわれの経験上、296万円のファミリー・カーに99g/kmのCO2排出量より少ないものを求めるのは難しいだろう。
1.6ℓエンジンも同様、2ℓエンジンかと思わせるようなトルクと力強さがあり、ノイズや振動の処理にも抜かりは無かった。
シフトチェンジをする際も、完璧なポジションと、明確でスムーズなタッチのお陰で嫌な気持ちにさせることは何一つなかった。
CVTを選んだとしても非常に印象が良いだろう。これは、1.6ℓディーゼル・エンジンと32.6kg-mのトルクとの相性の良さのおかげである。CVT特有のゴムバンドによって駆動させられているような感覚はない。通常のAT車を運転しているかのような感覚にさえさせてくれる。
ウエット、ドライ路面双方においてのブレーキ性能にも何一つ問題は無い。
全体を通してのテストで、結果として我々は何一つ不満を見つけることはなかった。
乗り心地とハンドリング
先代のキャシュカイが我々ドライバーをもっとも喜ばせてくれたものは何だったのだろうか。それは、クロスオーバーの類としてはやや例外的とも言えるべきハンドリングだったのではないだろうか。そして興味深いことに今回のキャシュカイ。似たような印象を、いくつかの点で与えてくれる。
乗り心地の観点から言うと、このクラスの標準からすると少しスポーティなセッティングに振っている。路面が良くないところでは、(悪い意味で)緊張感があり、硬い。ただし通常の走行ではノイズや、あまり歓迎できない角の立った感じは殆ど無い。したがって、”心地よいクルマ” であると結論付けることに異論はない。
ステアリングを切ってみると平均的なハッチバックと同様、クイックで直感的な反応を示す。また同クラスのベンチマークであるフォルクスワーゲン・ゴルフを基準としてみても、ロールやピッチを粘り強く処理してくれる。通常走行時に高めのロール軸や決して小さくないボディサイズのことを微塵も思い出させないところからしても、”ミスター・ノーマル走行” の称号を与えたいとさえ思わせてくれる。
キャシュカイの、全く乱れることのない安定性は、ドライ路面で少しばかり、丸め込まれすぎている印象がある。反面、その傾向が良い結果も生み出している。例えばコーナリング、言葉通りスイスイと駆け巡りすべて自分の手中で操舵している感覚に陥らせてくれるほどの出来映えだ。初代キャシュカイはこれとはまた違った類のダイナミックさを持っているが、これはこれで、初代から乗り換えに値するほどの進化を遂げている。
ドライ・コンディションのサーキットを走行した際には、1.5ℓのディーゼル・エンジンで計測した結果、フォード・フォーカス1.6TDCiに比べて僅か1秒遅いだけ、またプジョー・308 1.6 e-HDiに比べて2.5秒遅いという結果となった。しかしながら、あなたが想像される “ほとんど同じような” ライバルと比較すると2秒も速い。
キャシュカイは安定感が抜群で、姿勢も良く、曖昧なところが一切なく、速く運転することに対しても何の困難も厭わない、そんな車である。その上、スタビリティ・コントロール・システムは、アンダーステアをこれまた巧みに抑えこんでくれるのである。
もしあなたがキャシュカイを所有した際には、オフロードでの性能の高さにも気付かされることになるだろう。大きく路面が隆起するところでさえも、充分なクリアランスのおかげで同ライバルのホンダCR-Vやスバル・アウトバックと遜色の無いパフォーマンスを魅せつけてくれる。
トップ・グレードに位置する四輪駆動の130psのディーゼル・エンジンのモデルには6速MTのみしか用意されていないところが、玉に瑕だ。よりハイ・パワーな2ℓの四輪駆動車が後ほど追加された際にはATも用意されるとのことだ。その四輪駆動システムは、電子制御クラッチで四輪の制御となるようだ。
ランニング・コスト
初代キャシュカイの成功は、同レンジの競走をよりヒート・アップさせたと言っても過言ではない。その際、キャシュカイの価値はホットハッチや小さなMPVと大いに比較されたものだが、それら比較相手も日々進化し続けている。
そのプレッシャーと、日産の粘り強い健闘も相まって、新しいモデルも競争力を充分に持っている。
格安の1.2ℓのガソリン・エンジン(先代の1.6ℓより格段に良い)を選んだ際は£18,000(267万円)からのスタートとなる。エントリー・モデルであるヴィシアの装備に不満を感じることはないものの、日産は17インチのホイールや、左右独立エアコンやフロント・フォグ・ランプを装着したアセンタの販売に主眼をおいている。
多くの購入者がディーゼル・エンジンのモデルを購入することも充分にあり得るだろう。このディーゼルはCO2排出量99g/km、燃料消費率31.6km/ℓが日産の公表値である。われわれの計測では、高速巡航時に23.7km/ℓ、テスト全体で20.7km/ℓだったため、公表値をそのまま鵜呑みにすることは出来ないが、それでも満足できる数値である。
もしCO2排出量はが99g/kmの1.5ℓディーゼルのキャシュカイが欲しいなら、なるべくシンプルなオプションを選択する前提での購入を強くすすめる。しかしながら、もしあなたが衛星ナビゲーション・システムやDABラジオを必要とするのであれば、より上位のグレードを選択する必要がある。
また、相変わらず日産はFFモデルにマーケティングの重点をおいているため、四輪駆動車には著しく高価な価格設定を施しているのは無視しがたい事実としてここに記しておく。
価格低下に関しては、そう著しくはなく数年後に、中古購入を考えているオーナーもその装備の充実から充分に満足出来る買い物となるだろう。
結論
日産にとってキャシュカイは非常に大切なモデルとなった。もしキャシュカイの代わりとなるものを一から開発し直すとしたら、困難を極めることになるだろう。各メーカーのクルマはそれぞれ自由にそのデザインをするようになったものの、悲しいことにキャシュカイはセグメントを明確にアピールするようなインパクトのある個性を持ってはいない。同時に、運転においてもキャシュカイならではのキャラクター性は濃いとは言えない。
ただ、我々の疑念はテストを終えるに従って、まるで元からなかったかのようにスッキリと晴れていった。われわれはむしろ、キャシュカイが主に経済性やデイリー・ユースでの扱いやすさで、このレンジのトップモデルに踊りでたことを高く評価したい。
今回のモデル・チェンジでトップ・モデルとして、クロスオーバーとしての能力を伸ばしつつも、日々の足として使うことにも充分に満足できるような”幅”を大いに広げた。さらに伸びしろもあり、より磨きがかかれば不動のトップとして君臨し続けることも、そう難しくないだろう。
シュコダ・イエティやマツダCX5ももちろん、充分に競争力を持つはずである。しかしながら “オール・ラウンダー” としての完成度で、キャシュカイの右に出るものは今のところ無いと言っていい。