【買えないなら作っちゃえ】ティレルP34 伝説の6輪F1が蘇る レース愛好家が精巧に再現

公開 : 2021.10.30 06:25  更新 : 2021.10.31 18:18

次に欲しいF1マシンとは?

アリスター・ベネットは、次のように振り返る。

「一番厄介だったのは、シャシーのエンジニアリングと構造でした。リアエンドは比較的簡単ですが、P34のリアバルクヘッドから先の部分はほとんどが特注品です。フロントアップライトがその例で、半分はアップライト、半分はキャリパーという奇妙な配置で、狭いスペースに押し込まれています。幸いなことに、CADに対応した図面があったのですが、それでも機械加工は大変でした」

ジョナサン・ホルツマン
ジョナサン・ホルツマン

素材の選択にも細心の注意が払われた。現代的なカーボンファイバーではなく、含浸加工を施したグラスファイバーをノーズに使用するなど、可能な限り当時の仕様を踏襲した。また、ジェフ・リチャードソン・エンジニアリング社製のコスワースDFV V8エンジンも、当時の仕様のものを使用している。現代の機械加工技術を駆使することである程度は作業が簡単になったが、それでもプロジェクトは6か月遅れで進行した。

コンティニュエーションモデルの1台は、7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでパレードに参加した。ホルツマンは、ブランズハッチやシルバーストン・クラシックにも参戦しており、今秋にはスペインとポルトガルで開催されるヒストリック・ミーティングにも参加する予定だ。彼によれば、オリジナル車両の価値が上がり続けていることや、アストン マーティンジャガーが過去のモデルを新たに製造していることなどから、人々の反応はおおむね良好だという。

「純粋な好奇心があります。わたしは、アイデアを押し付けるのではなく、『シンプルに考えてみてほしい』と言っているだけです。オリジナルの車両はとても高価なので、人々は怖がって乗ることができないでしょう。だから、価値の高いオリジナルを評価し、それほど価値がなくても作りの完璧なコンティニュエーションを認識してほしいのです」

ティレルは7台のP34を製造したが、現存するのは5台のみ。シェクターはシャシー8を所有しているが、ホルツマンはこの個体を、コンティニュエーションとレプリカの中間のハイブリッドと呼んでいる。シェクターは、ホルツマンと彼のP34を自身のカーフェスに招待し、感銘を受け、貴重なセッティングのアドバイスを提供してくれたという。

では、実際に運転してみてどうだったのだろうか?

「最初にウェールズのペンブリーというフラットなコースでテストをしたのですが、とても速く、競争力がありました。気づいたのは、ブランズハッチのように地形が複雑なコースだと、前輪の内側が持ち上がるということです。しかし、ブレーキングやコーナリングでは、前輪が4つか2つかの違いはあまり感じられません」

「素晴らしいのは、直線での空力です。他のマシンの後ろにいると、すぐにゲインを得られたり、後ろの人を引き離したりします」

だからこそ、彼はP34を所有している(うち1台は売却予定)。他にも、コリン・チャップマンがマクラーレンと競ってカーボンファイバーをF1に採用した1981年のロータス87Bや、ジョン・バーナードの傑作でパドルシフトのセミオートマチック・トランスミッションを導入した1989年のフェラーリ640も所有している。どれも革新的なF1マシンだ。

ホルツマンは、他にどんなマシンを集めたいと考えているのだろうか。

「ブラバムのファンカーを2台作りたい!ということで、バーニー・エクレストンと話し合ってみたいですね。見てみたいと思いませんか?」

ゴードン・マレーが1978年に所有していたブラバムBT46Bは、F1のボスであるエクレストンが速すぎる(?)と判断して撤退させる前、ただ1度だけスウェーデンGPで優勝したことがある。ライセンス交渉がうまくいくといいのだが……。ホルツマンも、この件に関しては「ノー」と答えざるを得ないかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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