マセラティ・クアトロポルテGTS
公開 : 2014.05.07 22:45 更新 : 2017.05.29 19:12
■どんなクルマ?
マセラティのフラッグシップ・モデルの中でも、さらにフラッグシップに位置するのがこのクワトロポルテGTSである。一番速く、一番パワフルなサルーンたらしめるものは530psのフェラーリ製V8エンジンで1630万円にものぼる車両価格は幾分エキゾチックな領域に属する。
本格的なスポーツ性能を求めて作られており、同時に海外戦略にも大きな野心を持ってデザインされる。ヨーロッパでの初試乗から1年、右ハンドルのモデルをイギリスの道路でテストしてみることにする。
■どんな感じ?
率直に大きい、いや巨大だ。ここ数年、マセラティのモデル・レンジから目を向けていなかった人にとっては、ことさら大きいと感じるだろう。
先代ボディ・サイズは中型と大型の間に位置していたが、今回のクワトロポルテのホイール・ベースの3171mmという数字はロング・ホイールベースのメルセデスSクラスやジャガーXJLよりも長い事を意味する。ピタリと仕立てられた名声高きスーツの様な存在であると同時に、駐車場でははみ出らんばかりの恰幅の良さは無視できない。
マセラティ・オリジナルのアルミ製プラットフォームの上には、トリノにあるベルトーネが所有していた工場にて、マセラティ製サスペンション、ZF製の8速オートマチック・トランスミッション、が組み合わされる。駆動方式はFRとなる。
スカイフック可変ダンパー、20インチ・アロイ・ホイール、セクションが285mmのタイヤ、直径380mmの鉄製ブレーキ・ディスクが標準装備となる。またトレンドとは逆行し、加速度型油圧ステアリングが採用されている。
ルックスは “素晴らしい” のひとこと。グラマラスで筋肉質だけれどもエレガントなデザインは、ドイツのプレミアム・ブランドのライバルたちと簡単に識別することが可能である。サッシュレスのサイドガラスと、ふんだんにあしらわれたクロームはクラシカルな印象も与える。
インテリアは、いままでのクワトロポルテと違って前後ともに余裕がある。ただし、システムに重厚感は感じられないのは事実である。
上質かどうか。これに関しては貧相という言葉の対極にあると考えて良い。ただ、他の直接的なライバルになるであろうサルーンと比較すると、それらには劣る。室内にあしらわれたレザーのしつらえは、上質で心地よい。シートのサイズにも余裕があり快適、装備品にも不足はない。
ただし、メルセデスSクラスやBMW 7シリーズと比べると、それらほどの細部に渡る徹底はなされてはいない。£100,000(1500万円)クラスのクルマにしては、スイッチの感触は簡素で普通、ダッシュボードにはプラスチック素材が多く感じられる。標準でついてくるサテライト・ナビゲーションは大きすぎて、周りのデザインともチグハグな印象がありまるで後付けのようだ。
ただし、忘れてはならないのはこの車が ”後部座席の人のためのクルマではなく運転席の人のためのクルマ” だということ。細部の上質さを打ち消すほどの粘り強さと、優れたシャシー・バランスと反応のよいステアリングは、同サイズのライバルよりも一回り小さい4ドアのスポーツ・セダンが走行比較の対象になるだろ。
ところが実際に走ってみると少し気になる点も見られる。シャープさにかける感触はどうしても直感的という言葉を使う事を躊躇わせるし、長距離走行の際はクアトロポルテにしてはどこかリラックス出来ない印象がある。
マセラティのV8ターボのサウンドはたまらなく甘美で中速域でのトルクは充分で追い越し加速も申し分ない。全体をとおしてもパワー不足を感じさせることはなかった。ジャガーXJRと比較すると、XJRの方が僅かにウルサく、僅かに速く感じられた。
XJRがクアトロポルテよりも優れているなと感じさせる点は、マジカルな滑らかさ、洗練、安定感、パフォーマンスと俊敏性を引き出すために一貫したレスポンスの良さと言えるだろう。たしかに、先代のクアトロポルテの欠点を補ってはいるものの、他メーカーのライバルと比較すると、充分に優れているとは言い難い。
ダンパーをコンフォートモードに切り替えて走行をした際、イギリスの路面ではおおよそ満足のいく仕事をしてくれたが、高速道路や市街地、未舗装路では時たま不安定な挙動を見せた。
ステアリングはどっしりとして、路面情報は忠実に伝えてくれる。シャシーの安定感も抜群でかなり追い詰めた走りをしても平気だろうと思わせてくれる安心感がある。走るために妥協無く作られているといった感じだ。
完全に電子制御の介入をオフにしない限り、ステアリングを1/4まで切るまでの間、非線形のジャンプが生じる。それによって、アクセルの微妙な操作で挙動を微調整したり、コーナーに切り込むことがやや難しくなる。高速コーナリング時におけるバンプステアはドライバーの理想とするラインを狂わせ、またキャンバーの変化はスタビリティを欠いた。
パワートレインにも、運転に差支えがあるようなマナーの悪さがあるのも事実。おそらく、マセラティのエンジニアはそこまでの細心の注意を払っていないであろうが、スポーツ・モードにスイッチした際のあまりに敏感すぎるアクセル・レスポンスはこちらを注意深くさせすぎる傾向もあった。
マニュアル・モードでダウン・シフトした際は、さらに苛立ちを覚えさせるエンジン・ブレーキが掛かり、それほどのものではないにせよ楽しみを確実に奪っている事は間違いない。また同時に、オーナーのクレームにあまり耳を傾けていないように感じた。
■「買い」か?
確かに先代に比べ進化したけれど、ポルシェ・パナメーラ・ターボやジャガー・XJRと比較するとそれらからクワトロポルテに乗り換えるのに充分な理由は見当たらない。
パフォーマンス、実用性の改良により長い年月をかけてライバルとの差を小さくしてきたものの、洗練に欠けるハンドリング、質感、内装、操作性等、ライバルに劣る点は依然としての頃続ける。
美しいスタイリング、エキゾチックな雰囲気、いきいきとしたスポーティーなキャラクターと引き換えに、(先代がそうであったように)数々の妥協を強いられることになるだろう。
(マット・ソーンダース)
マセラティ・クアトロポルテGTS
価格 | £108,185(1,600万円) |
最高速度 | 308km/h |
0-100km/h加速 | 4.7秒 |
燃費 | 10.2km/ℓ |
CO2排出量 | 274g/km |
乾燥重量 | 1900kg |
エンジン | V型8気筒3799ccツインターボ |
最高出力 | 530ps/6500-6800rpm |
最大トルク | 72.5kg-m/2250-3500rpm |
ギアボックス | 8速オートマティック |