未来の技術者を育てる「学校」、英国JCBアカデミーとは ビジネス的観点も教育
公開 : 2021.11.06 06:05
英国でエンジニアの卵を育てるJCBアカデミーを訪問。生徒はクルマ、宇宙、医療工学などの夢を抱いています。
14歳から学ぶエンジニアリング
1970年代半ばのある月曜日の朝、10代のコリン・グッドウィン少年は教室の後ろの方に座って、クルマやオートバイ、エンジンの夢を見ていた。前方では、先生が黒板にフランス語の文章を書き込んでいる。「なぜフランス語を学ぶのか」と、コリン少年は思った。「フランスに住んだり働いたりすることがあるのだろうか」と。
筆者(コリン・グッドウィン)の両親は息子の教育に多額の費用をかけたが、試験結果から得られる見返りを考えれば、地元のグレイハウンド・トラック(ドッグレース)に行って大金を吹き飛ばした方が良かったかもしれない。困ったことに、筆者は自分が興味を持った科目にしか手を付けず、その科目とは英語だけだった。文学と言語の両方でOレベル(修了試験)で良い成績を収めたたが、この2科目だけで全点数の50%を占めている。
願わくば物理学にも興味を持つべきだった。もし学校の誰かが機転を利かせて、物理学が筆者の愛するマシンの創造、機能、性能に重要な役割を果たしていることを教えてくれていれば、少しは興味を惹かれていたであろう。あるいは、学校から15kmも離れていないところにあったブラバムやティレルのF1チームを訪れていれば、筆者の人生は変わっていたかもしれない。
あれから45年。英スタッフォードシャー州ロチェスターにあるJCBアカデミーのYear 10(14~15歳の生徒)は、月曜日の最初の授業を受けている。彼らが手にしているのはラテン語の教科書ではなく、フランス語のフレーズを必死になって練習帳に書き写しているわけでもない。旋盤で短いアルミの棒を回しているのだ。少年少女合わせて10人ほどの生徒が、それぞれ自分の機械を操作している。先生はその様子を注意深く観察し、工具の位置やセッティングについてアドバイスしている。
JCBアカデミーという名前は聞いたことがあったが、てっきりユートクセターにあるJCB(重機メーカー)工場の研修施設として設立されたものだと思っていた。また、生徒は見習いか大学院生だと思っていた。数週間前、JCBの広報部から筆者のもとにメールが届き、同社の元エンジニアであるビル・ターンブル氏が最近亡くなり、彼がレストアしたブガッティ・タイプ57の売却益の一部をアカデミーに寄付したとのことであった。このプレスリリースを見て、アカデミーに対する筆者の思い込みが間違っていたことが明らかになったのである。