未来の技術者を育てる「学校」、英国JCBアカデミーとは ビジネス的観点も教育
公開 : 2021.11.06 06:05
サポーターには有名企業が名を連ねる
アカデミーではまず、Year 10(14歳と15歳)の子供たちを受け入れている。物理学の教師で校長のジェニー・マクガーク氏に話を聞くと、次のように教えてくれた。
「このアカデミーは2010年に設立され、エンジニアリングとビジネスに重点を置いています。学校というよりもビジネスに近い形で教育を行っており、カリキュラムも大きく異なります。例えば、歴史や地理はありませんが、関連性があればそれらの科目にも触れます。しかし、学習者(生徒のこと)が選ぶことのできるオプショもあります。例えば、現代語やプロダクトデザインなどです」
プロダクトデザイン?宗教的な知識よりも面白そうだ。しかし、筆者の心を掴んだのは、校内を案内してくれた副校長のトム・グリーン氏の言葉だった。彼によると、旋盤やフィッティングルームと呼ばれる場所での作業時間を増やすオプションを取ることも可能だという。
「通常、2週間に4時間程度の旋盤作業を行いますが、このオプションを選択すると10時間に延長されます」と元アイルランド陸軍技術士官のトムは説明する。筆者も加えてください、先生。
アカデミーには約600人の生徒(80%が男子)がおり、3つのハウスに分かれている。筆者が通っていた学校のハウスは、北、南、東、西という風に方位から名前が付けられていたが、JCBアカデミーでは人名にちなんで、ロイス、バンフォード、アークライトと呼ばれている。アークライトとは18世紀の発明家リチャード・アークライトのことで、アカデミーは彼が設立した古い工場の中にあるのだ。
アカデミーではまた、JCBをはじめとする地元のエンジニアリング企業からも実習生を受け入れている。ベントレー、トヨタ、ロールス・ロイス(自動車メーカーではなく航空宇宙産業として)など、有名な企業がスポンサーとなっている。
夢や目標に向かって突き進む若者
Year 11になると、授業の合間の休憩時間におしゃべりをしている子もいる。彼らはとても刺激的なグループで、筆者が期待していた通り、全員がエンジニアリングに興味を持っていた。
「わたしの父はロールス・ロイスで働いているので、エンジニアリングは家族の一部です」とハイジ・バントンは言う。彼女の隣にいるジェン・デインティもまた、非常に特殊な分野のエンジニアリングに情熱を傾けている。「医療工学や義肢装具の分野に進みたいと思っています」
そしてクルマ好きのイーサン・コブリーは、「モータースポーツ・エンジニアリングに進むのが目標です」と語る。
筆者が学生時代に方向性を明確にできなかったことをすべて学校のせいにすることはできないが、同世代の多くが同意するように、当時の進路指導は少々不足していた。アカデミーで印象的だったのは、そこでの教育が14歳のコリン少年の心にリンクするところだった。ビジネス面での教育は、筆者にとってはあまり魅力的ではなかったかもしれないが、非常に実用的で関連性の高いものだ。ある若者は、「税金や会計など、個人の生活や起業に役立つさまざまなことを教えてもらっています」と教えてくれた。
しかし、筆者がこのアカデミーで最も感銘を受けたのは、実践的なスキルを重視していることだ。アカデミーのウェブサイトには卒業生の声が掲載されているが、中にはケンブリッジのTWI(接合・溶接研究所)に入った生徒もいる。エンジニアリングに特化した教育機関であればこそ、生徒の1人が英国で最も尊敬されている研究所に入ったことを誇りに思うはずだ。
アカデミーには制服や規律があるし、他にも若い頃は好きではなかったことがいくつかあるが、カリキュラムの実践的な側面から得られる喜びがあれば、そうした不便さは打ち消されたことだろう。
感情的な一日になってしまった。筆者の人生はなんとかうまくいっているが、JCBアカデミーのような場所に行っていれば、もっとチャンスに恵まれていただろう。生まれて初めて、学校で人をうらやましく思った。