自作シングルシーター アルファ・ティーポ159風 ジョン・ナッシュ・スペシャル 前編
公開 : 2021.11.21 07:05
英国のスポーツカー魂を象徴する、FRPボディで仕上げたスペシャル・モデル。見事な自作車を英国編集部が紹介します。
遠くから見た姿はティーポ159にそっくり
まるで往年のF1ドライバー、ファン・マヌエル・ファンジオ氏が見た景色を、体験しているかのようだ。小さなフロントガラスが、華奢なアルミニウム製のフレームに収まっている。その先で、細長いボンネットの峰をワイヤーホイールが支えている。
筆者の手は、十字に切られたアルミスポークをウッドリムが挟む、ステアリングホイールを握っている。右足の横には、握りやすそうなシフトノブが突き出ている。
アルミ製のダッシュボード・パネルに、白い盤面のメーターが並ぶ。コクピットは非常にシンプル。
シングルシーターの小さなクルマだが、肘まわりの空間には余裕がある。3枚のペダルの位置はもう少し近くても良さそうだが、これはオーナーへ最適化されている。筆者が感じるベストと多少違っていても当然。シートの位置も変えられない。
この赤いクルマを初めて目にしたのは、2019年にブランズハッチ・サーキットで開催された、ビンテージ・スポーツカー・クラブのミーティング・イベント。キットカー・エリアに展示される車列に混ざって停まっていた。
遠くから見た姿は、往年のグランプリ・レーサー、アルファ・ロメオ・ティーポ159 アルフェッタにそっくりだった。オープンホイールの真っ赤で滑らかなボディに、特徴的な卵型のフロントグリルが切られていたのだから。
オーナー自ら組み立てるスペシャル・モデル
接近するとウインカーが付いていて、ナンバープレートも取得している。公道も走れるようだった。詳しくはわからなくても、素晴らしい佇まいだったことは間違いない。
そのクルマの前には、プレゼンテーションとして説明が記された1枚の紙が置かれていた。それによれば、このクルマはイベントでキットカーとスペシャル・モデルの展示ブースを企画した、1人の男性が作ったものだという。
その人物の名前は、ジョン・ナッシュ氏。ケント・キットカー・クラブのメンバーだった。ホームメイドのスペシャル・モデルは、50年前の英国ではしばしば目にすることができたが、最近はとても珍しい。
1950年代から1960年代にかけて、アマチュア・ドライバーが主にモータースポーツを楽しむために発生した、スペシャル・モデルという文化。ガレージでオーナーが自ら組み立てる、キットカーの前身といえるものだった。
シャシーやボディ、エンジン、各部品を供給・販売する、独自の産業体系が英国には形成されていた。マクラーレンF1の開発などで知られるゴードン・マレー氏も、初めて手掛けたのはIGMフォードT1と呼ばれるスペシャル・モデルだ。
ロータス・セブンの影響を強く受けた、細身のボディにサイクルフェンダーが特徴。スペースフレーム・シャシーはゴードン自身が設計したものだった。この赤いクルマを目にしたら、彼も恐らく感動してくれるのではないかと思う。