自作シングルシーター アルファ・ティーポ159風 ジョン・ナッシュ・スペシャル 前編
公開 : 2021.11.21 07:05
述べ7000時間を投じて自作
展示ブースで、作者のナッシュが来るのを待った。素晴らしい仕事を称えたいと考えたからだ。筆者はこれまでキットカーやスペシャル・モデルに強い関心を寄せてきたが、これほど美しい仕上がりのものは今まで見たことがなかった。
どんな構成なのか、待っている間も興味は尽きない。ジャガーのエンジンを載せているかもしれない。159 アルフェッタ風のボディへ呼応するように、アルファ・ロメオのツインカム・ユニットかもしれない。次々に疑問が湧く。
しかも、これを仕上げるのに要した費用は6000ポンド(93万円)以下だったと書かれてある。こんなに美しいクルマを、どうやってそんな低コストで製作したのか、知りたいと強く思った。
しばらくして、ナッシュがクルマのところへ戻って来た。話を聞けば、5年間をかけてゼロから作り上げたという。戦前から戦後にかけて活躍したグランプリ・マシンに影響を受け、殆どの作業を自ら行ったそうだ。
しかも完成までに投じた金額は、合計5750ポンド(89万円)。しかし、完成に費やされた時間は7000時間にも及んだ。このクルマを、ナッシュはJNSと呼んでいる。ジョン・ナッシュ・スペシャルの略だ。
数か月後、筆者は英国南東部にあるハイスの町を訪ねた。ナッシュの簡素なガレージにお邪魔し、JNSのことを取材させてもらうために。
古いルノー5 ターボの駆動系を流用
ガレージで最初に驚いたのは、このJNSは、彼が手掛けた唯一の1台ではないということ。「過去に、JNSに似たカタチのスリーホイラーを作ったことがありました。しかし友人の多くが、四輪の方が遥かにカッコよく見えると話したんですよ」
ナッシュが振り返る。「当初は、オリジナルのスリーホイラーへ手を加えようと考えました。でも、最初から作った方がシンプルだと、すぐに考えを改めたんです」
ボンネットを取り外すと、エンジンが顕になる。展示会場で想像していたユニットとは違っていた。「キットカー・クラブのメンバーが、古いルノー5を手放したいと話していたんです。その1台には、ゴルディーニ・ターボも含まれていました」
「200ポンドを準備して、ペアで購入。必要な部品を取り外すため、友人の納屋でルノーをバラしました」。と説明するナッシュ。
「後輪駆動のクルマは、プロペラシャフトを通す場所を作る必要があり、設計や製作が複雑になります。でもFFのルノーなら、ずっとシンプルにエンジンを搭載できます」
「エンジンを縦置きに改めて、ギアボックスをフロント側に組みました。ドライブシャフトやサスペンションのウイッシュボーン、トーションバー・スプリング、ブレーキにハブなど、ルノーの駆動系が一式利用できています」
この続きは後編にて。