自作シングルシーター アルファ・ティーポ159風 ジョン・ナッシュ・スペシャル 後編
公開 : 2021.11.21 07:06
英国のスポーツカー魂を象徴する、FRPボディで仕上げたスペシャル・モデル。見事な自作車を英国編集部が紹介します。
高圧ピストンの1.4L NAで111ps
ルノー5 ゴルディーニ・ターボのドライブトレインを利用した、ジョン・ナッシュ自作のスペシャル・モデル「JNS」。前編を読んで、想像した内容と違っていた、と感じた読者もいるかも知れない。
確かに前輪駆動のグランプリ・マシンは、これまで存在していない。しかしアメリカへ目を向ければ、第二次大戦の前後で複数のFFマシンがインディ500で優勝していた過去がある。
ナッシュは、ターボチャージャーの処理に手を焼いたという。ルノー5の場合はエンジンのフロント側にターボが載っているが、彼はラジエーターの位置を下げ、低く細い葉巻型のボディラインを実現したいと考えていた。ターボが邪魔だったのだ。
ナッシュが説明する。「ターボを残すことは、沢山のトラブルを増やすだけ、という結論に達したんです。そこでターボは諦めて、減少するパワーを取り戻すために、高圧のピンストンを組んでいます」
ルノー5 ターボのエンジンからターボが外されたものの、チューニングされた鋳鉄製ブロックにOHVのアルミヘッドを備える1397cc 4気筒エンジンは、111psを発揮するという。悪くない数字だ。
5750ポンド(89万円)という費用で、1台限りの素晴らしいスペシャル・モデルを仕上げたナッシュ。その秘訣はほぼすべての作業を自ら行うことと、部品調達を広い視野で進めることにあったようだ。
FRPのボディは型から自作
「重要な溶接部分だけは、専門家に依頼しています。リアのトレーリングアームなど。これはシトロエン2CV用の部品を流用しているのですが、リアタイヤの位置を合わせるために、短く加工する必要がありました」
「グラスファイバー製のボディは、型から自分で製作しています。でも、仕上げの塗装は職人さんへお願いしました」
技術的なバックグラウンドだけでなく、ナッシュはデザイン的な技術も高いことが、JNSを観察すると見えてくる。「エンジニアとして実習を受けていた時期もありました。ですが、その後は電力会社で説明用のテクニカル・ドローイングを描いていました」
「退職前には英国ダンジネス発電所で、操作マニュアルのイラストも手掛けています」。その経歴を示すように、ガレージの壁にはナッシュが描いたJNSの美しい透視図が掛けられている。見事なアートワークだ。
丸いボンネット上部にある2本のバルジは、キャブレターとロッカーカバーを避けるため。細部までこだわった仕事を示す、ディティールの1つだろう。
バルジの大きさは左右で異なるそうだが、模造のリベットヘッドを追加することで、対称で美しく見えるように工夫してある。このあたりも、彼のデザイン的な審美眼があってこそだと思う。