自作シングルシーター アルファ・ティーポ159風 ジョン・ナッシュ・スペシャル 後編

公開 : 2021.11.21 07:06

ヴォグゾールトライアンフの部品を流用

高価なスーパーカーを運転することは、筆者のような仕事をしていれば、さほど難しくは感じない。モーターショーに展示されるような1台限りのコンセプトカーには、数百万ポンド(数億円)の製作費用が掛かっているから、流石に気を使う。

でも大手の自動車メーカーの場合、われわれへ貸し出す場合はしっかり保険を掛けている。でも、JNSは違う。今まで以上に注意を払って運転しなければならない。

ジョン・ナッシュ・スペシャル
ジョン・ナッシュ・スペシャル

今回の取材のために、3万ポンド(465万円)の損害保険に入った。でも、お金で済む話ではない。ナッシュはこれまでに、7000時間という膨大な手間を費やしている。慎重にJNSを運転しなければ。

コクピットに座ったら、周囲を観察する価値がある。幅の広いドライビングシートは、ヴォグゾール・ビバに載っていたものだという。白い文字盤が美しい大きなメーター類は、トライアンフ・ドロマイト用。10ポンド(1600円)だったらしい。

文字盤はレトロフィットさせるため、転写シートを使ってナッシュが自作した。足もとには、アルミのフロア材が敷かれている。ペダルはトライアンフ・スピットファイアのもの。すべて安価に手に入れられるものだが、安っぽくは見えない。

ターボが外されたゴルディーニ・エンジンは、ウエーバーのシングルキャブではなく、DCOEツインキャブに変更されている。それを保護するエアクリーナーは、スポンジとワイヤーでの自作。高価な社外品を、購入する気が失せそうだ。

ホームビルドとして驚くほど高い運動性能

自然吸気4気筒エンジンのサウンドは素晴らしい。ボリュームは大きすぎず、吸気音と排気音がバランスしている。

見事なエンスージァストの作品に、批判するような点はない。ブレーキペダルのストロークが少々多すぎ、サーボなしでも充分効きそうな気はする。シフトレバーの角度は、少し扱いにくい。とはいえ、その程度でしかない。

ジョン・ナッシュ・スペシャルを製作したジョン・ナッシュ氏
ジョン・ナッシュ・スペシャルを製作したジョン・ナッシュ氏

ナッシュとしては、シフトのリンクを改良しようと考えたらしい。現状では、できうる限りの状態だという。

JNSの運動性能は、ホームビルドのスペシャル・モデルとして考えれば、驚かされるほど高い。しかも、自身で設計やデザインまで行っているのだ。ステアリングはダイレクトで、気持ち良く軽快。100馬力程度のエンジンだから、トルクステアもない。

何より、乗り心地に感心させられる。インボード・レイアウトのコイル・サスペンションがリアに組まれ、路面への追従性に優れ快適。加えてJNSの車重は約580kgしかないから、とても活発に走る。

穏やかに長距離走行もこなせる、ツーリングマシンでもあるようだ。ここから約550km離れたフランスのル・マンまで、JNSで問題なく往復したこともあるという。

ナッシュがガレージの扉を開くと、卵型のフロントグリルが切られた、真っ赤なボディが姿を表す。その度に、彼は自らに誇りを感じているのではないだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    コリン・グッドウィン

    Colin Goodwin

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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