1960年式ダッジ・ポラーラ 最先端だったテールフィンのフルサイズ 後編
公開 : 2021.11.27 07:06
1962年にまったく新しいポラーラへ交代
このV8は1958年のBシリーズ・ユニットで、くさび型をした燃焼室を備える。ポラーラではパワフルなラム・インダクション仕様も選択できたが、このエントリーグレードの仕様でも、329psという不足ない馬力を生み出す。
動力性能は現在でも充分以上。心地良いエグゾーストノートとともに、滑らかに速度を乗せていく。Bシリーズ・エンジンは、後にピックアップ・トラックへの搭載が主流となった。豪華なモーターボート用のエンジンとしても利用されている。
パワーアシストで軽いステアリングホイールを回すと、ノーズのゆったりした動きは、クルマというよりも船のよう。アクセルペダルへ力を込めると、慣性でフロントノーズが持ち上がる様子も。
1960年にダッジが生産した35万台のうち、ポラーラは1万6000台ほど。ひと回り小さいダートの方が、10倍近く多く売れた。
その後、1961年モデルが発表され、ポラーラの売れ行きは回復。テールフィンは穏やかになり、物議を醸したテールライトを備えていたが、50%ほど台数を伸ばした。
ところが1962年、まったく新しいポラーラが登場する。エクスナー・スタイリングの時代は、音を立てるように終わった。
1961年仕様のスタイリングを手掛けている途中、エクスナーは心臓発作を発症。彼が進めていたデザイン案は却下され、クライスラーのデザイン・チーフは、エルウッド・エンゲル氏へ交代してしまう。
アメリカにおけるカーデザイン黄金時代
アメリカ車として、象徴的なスタイリングを生み出したエクスナー。しかし流行りモノとみなされ、ポラーラにはしばらくの間、冷たい視線が向けられるようになっていた。
だが、アメリカにおけるカーデザイン黄金時代を飾ったモデルとして、近年は再び評価を高めつつある。確かにスペースエイジを色濃く映し出す一方で、タイムレスな魅力も備わっていると思う。
交通量が殆どない砂漠の広がるエリアを、数時間クルージングさせてもらった。装飾的な要素が強いが、不思議な惹きつける力を持っている。
新車時は、時代を象徴するクルマだったことは間違いない。一方で、カリフォルニア州のサン・ジャッキント山脈に向かって走っていると、欲望に満ちた時代の虚しさも感じられてくる。荒野の中で、夕日に照らされていたからかもしれないが。
沢山のヤシの木やサボテンとともに、ミッドセンチュリー時代のバンガローが立ち並ぶパームスプリングスの道を進む。大きな交通標識が、タイムスリップしそうな気持ちを現在に留めてくれる。
巨大なテールフィンの付いたクルマだからこそ、この不思議な気分を味わえる。大胆なダッシュボードと半透明のステアリングホイールを眺めながら運転できるポラーラは、古い宇宙船というか、タイムマシンのようだ。
時々クラシックだが、時々モダン。1960年代の香りは、なぜか未来的な印象も与えてくれた。
ダッジ・ポラーラ(1960年/北米仕様)のスペック
英国価格:3141ドル(新車時)/5万ドル(555万円)以下(現在)
生産台数:約1万6000台
全長:5436mm
全幅:1981mm
全高:1379mm
最高速度:209km/h
0-97km/h加速:8.8秒
燃費:4.2km/L
CO2排出量:−
車両重量:1758kg
パワートレイン:V型8気筒6277cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:329ps/4600rpm
最大トルク:57.9kg-m/2400rpm
ギアボックス:3速オートマティック