アレックス・アルボン F1復帰を語る 掴んだ2度目のチャンス、活かせるか

公開 : 2021.11.07 19:45  更新 : 2021.11.08 09:52

傍観の一年を終えて

重要なのは、レッドブルで果たせなかったことを、ウィリアムズで実現できるかどうかということだ。チームメイトのニコラス・ラティフィは有能なドライバーだが、F1の世界では特別な存在というわけではない。アルボンは、ラッセルが過去3年間活躍してきたシートを引き継ぐと同時に、非常に好調なウィリアムズを牽引していかなければならない。

今年、ウィリアムズのフォームは劇的に改善され、アメリカGPまでに23ポイントを獲得することができた(過去3シーズンでは8ポイント)。ウィリアムズはミッドフィールダー以上の存在にはなりそうにないが、アルボンは結果を出せるチームに行くことになる。

アレックス・アルボン
アレックス・アルボン

また、傍観者であることも彼にとっては有益だったかもしれない。レッドブルの一員として積極的に活動しながら、2021年の苦闘を振り返ることができたのだ。延々と続くシミュレーターでの作業に加えて、2022年型のタイヤテストのためにレッドブルの18インチホイールのテスト車両に試乗することもあり、さらにはプロモーションのために現行マシンで数日過ごすこともあったという。そして、おそらく最も価値があるのは、F1の最前線から離れたことでF1に対して異なる視点を持てるようになったことであり、それがよりよいドライバーへの道に繋がると期待している。

アルボンは、今年得た新たな視点について、次のように語っている。

「今年は反省の年だ。去年を振り返って、『もっとうまくできたのではないか』と考えることがある。裏方に回ったことで、マックスやチェコ(ペレス)がこのような状況にどう対処しているかを見ることもできる。特にチェコの場合は、F1で10年の経験を持つチームの新加入者だったから、彼がどのように仕事を進めているかなど、状況を俯瞰できてよかったよ」

「それに加えて、シミュレーターや開発作業に携わることで、チームの全体像を把握することができる。レースチームだけではなく、ミルトン・キーンズにいるすべての人たちのこともね」

「来年のマシンのためにシミュレーターで多くの作業を行っているので、F1マシンの動作に必要なものを理解することができる。レースドライバーであれば決して話すことのないような人々とも会話を交わすことができるんだ。サーキットでは、コミュニケーションをとる人の数がとても少ないからね」

瀬戸際から立ち直る能力

アルボンには、1年間の活動休止の後にドライビングの鋭さを取り戻すという課題もある。F1のシーズン後もレースに参加している人たちでさえ、いくつかレースを重ねることで鋭さを取り戻していく。それがアルボンの今シーズンの重要な目標の1つだ。来シーズンのウィリアムズの競争力は知れないが、アルボンは自分の力を最大限に発揮し、マシンのポテンシャルを最大限に引き出すことに集中している。

「僕の場合、とにかくスピードを上げることだ。エステバン・オコンやフェルナンド・アロンソを見てもわかるように、1年休んだ後はペースを取り戻すのに少し時間がかかる。プレシーズンテストがあるので、早くスピードを取り戻して、正しくフィードバックしなければいけない」

アレックス・アルボン
アレックス・アルボン

「グリッド全体にとって新たなスタートとなる。チームとしてどこにいるのか、それは時間が経ってみないとわからない。重要なのは、最初にどこにいようとも、スタートが良くても悪くても、前進してマシンのパフォーマンスを維持または向上させることだ」

そもそも、なぜ2回目のチャンスを得たアルボンに活躍を期待するのか。結局のところ、ウィリアムズの現在のレベルを考えると、ドライバーを選ぶことはできなかった。特に、メルセデスからドロップアウトしたバルテリ・ボッタスがアルファ・ロメオへの移籍を決めたこともあり、アルボンはそうした状況の中では最高の人材であると言えるだろう。しかし、アルボンはキャリアの中で発揮してきた基本的な能力(チャンピオンになったことはないが、レースにはたくさん勝っている)だけでなく、「バウンスバックアビリティ(悪い状況から立ち直す能力)」と呼ばれるようなものなど、持つべきものは持っている。

彼がF1に参戦できたのは奇跡的なことで、というのも、2019年にフォーミュラE参戦を決めていたときに、それまで彼をジュニア・プログラムから外していたレッドブルが声をかけてきたからである。そして、それ以前にもF2でのレースは望み薄と思われていたが、2018年に総合3位に輝くなどしっかりと結果を残した。

「F2ではすでにそういう経験を積んでいた」と、アルボンは瀬戸際から復活する傾向について語る。「F2では、かろうじてシートを争っていた。どちらかというと、それが反発心とF1への固い決意を与えてくれたと言える。その感覚を味わったからこそ、F1で戦えると思っていた。困難なプロセスを経てきたから、もう動揺することはない」

さて、アルボンのカムバックにより、彼の能力がどのような結果をもたらすかを見極める時が来た。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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